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作:戯言遣いさん 半分の月がのぼる空 one day story Vol.1・St.Valentine's Day(Side BLUE)

バレンタイン企画に投稿して頂いたSSです。
(戎崎裕一の回想・その1)

 一月十二日。
 三学期の登校三日目。
 昼休み。
 教室。
 「あれ?おい司、どうした?」
 弁当を食おうと机の上に出した所で、教室の前の方の入り口から顔だけ覗かせている司が目に入った。僕の声で司の視線が僕の方に向き、そのまま教室に入ってきた。
 「一緒に食べようと思って」
 司が持つと何故か小さく見える大きめの弁当箱を掲げて見せながら、そんな事を言ってきた。
 「わざわざ来たのかよ。みゆきは良いのか?いつも一緒に食ってんだろ?」
 「あ、うん、良いんだ。今日は女の子の友達と食べるらしくて」
 「ふぅん…。あ、悪い悪い、この椅子使えよ。席の奴は休みだから遠慮無く使え」
 「うん、ありがとう」
 …やっぱり司が座ると椅子、小さく見えるよなぁ…。
 弁当を開けながらぼんやりそんな事を思っていると、同じく弁当を開けて食い始めた司が唐突な話題を振ってきた。
 「あのさ、裕一ってセーター着ないの?寒くない?」
 「ん?何だよ、突然。まぁ、寒がりじゃ無いしマフラーで十分だな」
 「セーター、持ってないの?」
 「いやいや、人の話聞けよ。寒がりじゃないからいらないんだって。…あー、でも今年はまだ雪降ってるし、二月に入ってもまだ寒くなるって天気予報のお姉さんも言ってたからあった方が良いのかもな」
 「そうだよね、今年寒いよね」
 「あぁ。…今言われて気付いたけど…俺、多分セーターって中学の時のしか持って無いな…買いにいかないとサイズ合わないかも」
 「ゆ、裕一!あのさ、」
 「そんなデカい声出すなって…」
 「ご、ごめん…。あの、セーター。僕の着れなくなったの使わない?今度持ってくるから」
 妙に焦った感じで提案してきた。司がこんな風に言うのは珍しい。
 「お前の?あぁ、お前、中学の間に急に背伸びたもんな。くれるって言うなら貰うよ。セーターって意外に高いし」
 「うん、高いよね!じゃあ、今度持ってくるから」
 「だからデカい声出すなって。…わざわざサンキュな」
 そこまで一気に話して、司は美味そうに手作りであろう唐揚げを再び食べ始めた。僕は、自分の母親が作った昨日の残り物弁当と司の弁当を見比べて無性に情けなくなり、それを解消すべく、勝手に司の弁当から美味そうなおかずを選び取って食べた。司は文句を言ってきたが、無視しておいた。
 司の作ったおかずは、美味かった。


(戎崎裕一の回想・その2)

 一月二十四日。
 三学期の始業式から数えてちょうど二週間目。
 放課後。
 教室前の廊下。
 「裕ちゃん」
 「みゆき?」
 みゆきが立っていた。僕は六限が体育で着替えに時間が要ったので、どうやらみゆきは自分が放課になってからわざわざ僕を待っていたらしい。
 「どうした?司は?」
 「今日はちょっと裕ちゃんに頼みたい事があったから先に帰って貰ったの」
 「頼みたい事?お前が、俺に?」
 「そう。私が、裕ちゃんに。家まで来てくれる?」
 「別に暇だし良いけど…」
 今日は里香、定期検診の日だしな。
 そんなこんなで、水谷宅。
 「で、お前の家まで来たのは良いけどさ。俺は一体何をさせられるんだ?」
 正直怖いです。
 「はい、お茶」
 思い切り無視された上に、お茶は出涸らしだった。
 「それから、これを」
 「ん?」
 出涸らしのお茶と一緒に差し出されたのは、明らかに手作りのクッキーとチョコだった。どれも一口サイズだけど、見た目は様々で味も色んなのがあるのが一目で分かった。
 「菓子…か?」
 「うん」
 「手作り?」
 「うん」
 「お前、菓子作りも含めて料理ってあんまりしないんじゃなかったか?」
 「習ったから」
 「…司にか?」
 「うん」
 あ、ちょっと赤くなりやがった。らしくない。まぁ、この二人はお似合いだと僕も思うから微笑ましいと言えば微笑ましい。
 「バレンタインにあげたいんだけど、ほら、世古口君、料理上手だから舌も肥えてると思うの。だから少しでも美味しいの作りたくて」
 僕の前では相変わらず『世古口君』と呼んでいる。まぁ、慣れるまでは人前でも自分の恋人を名前で呼ぶのは恥ずかしいらしい。僕の場合は里香の命令が飛び交う中で慣れてしまったので、そういうのは無かった。
 と言うか、バレンタインか。里香は何をくれるんだろう。去年はまだ入院してたから貰わなかったしな。…今年はくれる…よな?
 それより、まだ三週間もあるのにみゆきは気が早いな、と思う。けど、料理が苦手で練習するなら受験勉強もあるしこの位から始めないと駄目なのかもしれない。
 「要は味見…と言うか毒味か」
 「ちゃんと自分で食べてから出してるから。自分では良く出来てると思うんだけど、ほら、やっぱり男の子の味の好みとか分からないし。世古口君の好みの味も実はいまいち分からなくて」
 「ふぅん…」
 みゆきの目が真剣だったので、味見位の協力ならいくらでもしてやるよ、と言ってからクッキーを口に入れる。
 「…どう?」
 「…お?美味いぞこれ」
 もう一つ、今度は一番好きなチョコチップクッキーに手を伸ばす。
 「…うん、これもイケる」
 「本当に?」
 「あぁ、マジで。手作りでこの味なら十分合格点だろ」
 途端に安心した顔になる。こんなに素直なみゆきを見たのは子どもの頃以来な気がする。
 「良かったぁ…。…あ、チョコはどうかな?」
 「おぉ、そうだそうだ、こいつが主役だもんな」
 「普通のチョコとビターチョコ、ホワイトチョコの三種類なんだけど。裕ちゃん、嫌いなチョコってあった?」
 「何で俺の好みを確認してるんだよ…司のだろ、確認すべきは。悪いけど、流石にあいつのチョコの好みまでは知らないぞ」
 「裕ちゃんは無いの?ほ、ほら、一応味見して貰う訳だから」
 「…まぁ、ビターは苦手だな、正直言うと。どうしてもあの苦い味は好きになれない」
 「好きなチョコは?」
 「だから何で俺の好みを確認してるんだよ…」
 「良いから」
 有無を言わせずかよ。
 「…好きなのは甘さ控えめ、位のチョコかな…苦いって訳じゃ無くて、あくまでも甘さ控えめ、ってヤツ」
 「そっか。…あ、クッキーは?」
 「『あ』って何だよ…忘れてた、みたいなその言い方。…クッキー?クッキーはチョコチップクッキーがダントツだ。他のも好きだけど、やっぱりチョコチップ」
 「そっか」
 「あぁ…って、食って良いか?」
 「あ、ごめん。どうぞ」
 良く分からない対応のみゆきに疑問の目を向けながら、僕はチョコを口に入れた。…うん、これも美味い。
 結局、一人で出された菓子は全て食べてしまった。みゆきの作った菓子は、美味かった。


(戎崎裕一の回想終了・2/14)

 あぁ。
 そうか。
 そうかそうか。
 そういう事だったのかよ。
 あぁ、おかしいとは思ってたさ。あの律儀な司が、わざわざ自分から言い出したのにいつまで経ってもセーターを持って来なかった事も、あの変に頑固なみゆきが、あの味見の後も何度か僕に菓子の味見をさせて僕のダメ出しにも怒らなかった事とか。そう言えば山西が『里香ちゃんからどんな風にチョコ貰いたいんだ?ん?』とか露骨に訊いてきたな。僕は答えたよ。
 『有り得ない位ベタベタに、恥ずかしそうに校舎裏で、とか良いよな』と。
 そうか、あれもそうだったんだな。山西だから何の意味も無い質問だと思ったよ。何の意味も無いと思ったからつい本心で答えたよ。里香なら普通に登校中とかにくれると思ってたんだよ。
 「…裕一?」
 だけど、里香から差し出された明らかにセーター大の大きさにラッピングされた包みと、バケットに入ったビターじゃないチョコとチョコチップクッキーと、今里香に呼び出された二人っきりでいるこの場所が校舎裏だっていうただただ単純な事実が、僕の回想の様々な疑問の答えになっていた。
 里香は恥ずかしそうだ。不安そうだ。これは里香の素の反応だな。里香、実は意外に恥ずかしがりだし。耳まで真っ赤な里香は、可愛いなんて言葉じゃ足りない位可愛かった。俯き気味に、僕の反応を伺ってる。
 …里香は、今この姿で僕をどれだけ喜ばせてるか分かってるんだろうか?
 「あの、セーター…と、チョコとクッキー。…あ、セーター、一応手編みだから。上手には出来てないかもしれないけど、世古口君に教わって頑張って作ったから」
 世古口司。お前は家庭科の神か?
 「お菓子も世古口君とみゆきに習ったの。自分では上手に出来てると思うんだけど…」
 水谷みゆき。お前の演技は完璧だったよ。裏があるなんてこれっぽっちも考えてなかったさ。
 多分、里香も知らないだろう。司とみゆき(と山西。山西は司とみゆきと無関係な気もするが)は里香に何も言って無いんだろう。あいつらは何も言わずに、密かに事態を進行させたのだ。たっぷりの善意と、少しイタズラな気持ちで。ほんの三、四ヶ月程前にもした事と同じ様に。
 思わず、にやけそうになる。
 …後からくっついた癖に、やってくれるじゃないか。
 「…裕一?」
 沈黙を不思議に思ったのか、里香は更に不安そうな顔になる。
 …あぁ、これは本当に多分だけど。
 多分。
 どっかから、あいつらは見てるんだろうな。
 良いようにされてるのが悔しくて、そして何より、目の前の里香に僕の気持ちと、プレゼントを作ってくれた嬉しさと気恥ずかしさを隠す為に、
 「え、裕一?」
 里香を、思い切り抱き締めた。
 「…ちょ、ちょっと、裕一?」
 「里香」
 「…何?」
 「俺さ、本当にお前の事、好きだ」
 「…裕…一」
 体は一ミリだって離さず。
 顔だけ、十センチ位離して。
 そして。
 顔の間の距離も、一ミリだって無くなった。
 目は瞑っていたけど。瞼の裏には、ハッキリと同じく目を瞑った里香が映っていた。抱き締める手に力が入る。里香が抱き返してくる。
 幸せだった。
 最高に、幸せだった。
 だが。
 「…――ッ!」
 不意に、里香が離れた。突然すぎて、かなり驚いた。
 「え、里香?」
 「もう、最悪!裕一のバカ!えっち!最低!」
 …えっち?
 そこで、気が付いた。
 いくら良いムードでも、最高に幸せでも、むしろ、良いムードで最高に幸せであればある程、僕の意識とは全くの無関係に反応してしまう『部分』が、男にはあった。
 「―――ッ!し、仕方無いだろ!?こういうもんなんだよ『これ』は!自然となるんだよ、俺の意識と無関係に!」
 「無意識にえっちな事ばっかり考えてるって事じゃない!もう、最悪!バカ裕一!」
 「いや、里香、だから」
 「うるさい!変態裕一!」
 視界の端に、コソコソと退散する三つの影が見えた。あ、あいつら…!
 「帰る!」
 「ちょ!ちょっと待てって!おい、里香!」
 僕は、どうやって里香をなだめるかという事を必死になって考えながら、里香の後を追った。
 バレンタインであろうと、僕と里香のやり取りは変わらない。そしてそれは、どこか心地良い幸せだった。
 願わくば。
 毎日が。
 里香と過ごす毎日が、里香の心にも僕より大きな幸せを感じさせてくれます様に。
 「里香!」
 里香が、僕を振り返る―――。





(追記・現在)

 自宅。
 自分の部屋。
 里香が編んでくれたセーターは少し大きかったけど、暖かかった。
 チョコとクッキーは、少しずつ食べる事にした。勿論、みゆきが作った菓子よりも、司が作ったおかずでさえ、この味には叶わないだろうさ。
 チョコを一つ、無造作に選んで口に運ぶ。しっかり味わおうと、口の中で転がす。
 …と、
 「…うぃ!?」
 口に広がった味にむせ返る。吐き出しはしないけど。
 何だこれ!?………って…あ。
 「………はは」
 ビターチョコだった。バケットを確認すると、他は普通だった。どうも、ハズレ(ある意味ではアタリ)を引いたみたいだ。
 僕が嫌いって、みゆきが教えたんだろう。それを入れる里香も里香だけど。………でも、里香らしいか。
 激苦のビターをしかし、幸せな気持ちで味わいながら、僕は一人笑った。



おわり

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いいね、こういうのって。(照)

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