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作:安自矢意さん「戒崎夫婦結婚目前破局事件」プロローグ

「はぁ~~~~……」
僕の口からまたため息が漏れた。朝起きてからかれこれ12回目だ。
しかし、今はまだ午前8時。今日はまだまだ終わらない。多分1日中ため息を漏らし続けるだろう。
「はぁ~~~~~……」
ほら、13回目。全く嫌になる。
なんで僕がこんなに悩まなくちゃいけないんだ?
なんで僕がいつも悪役なんだ?
なんで里香はいつも悲劇のヒロインみたいな扱い方をされるんだ?
自転車で駆け上る通学路。いつもはこの辺りで丁度里香に追い付くんだ。なのに今日も里香はいない。おそらくもう学校に着いているか、僕のはるか後ろを歩いているか、そのどちらかだろう。
最初のうちに言っておくが、最近学校で僕と里香の関係がよそよそしくなったのは、決して僕らが喧嘩をした訳ではないし、一方的に里香を怒らせてしまったからでもない。大体どちらかと言うと、僕と里香が互いの距離を置いたのではなく、学校の奴らが僕と里香を引き離した。って感じだ。
4日前の『あの出来事』さえなければ、今も僕らは、なんでもない通学路でなんでもない話をして、笑って、怒らせて、謝ったりしていたのだ。
里香があんな行動さえおこさなければ……



これは僕がみゆきから聞いた話だが、この事の発端は、今から4日前の更に3日前、つまり今から1週間前にまでさかのぼる。
その日は11月が訪れて8日が経った、つまりは僕と里香が通う学校の文化祭、『第70回山上祭』が終わりを迎えてまだ日が浅い頃の事だ。
山上祭で行った演劇部の発表で、学校の生徒は勿論、その父兄の方々にまでも噂されるようになった里香は、今や学校一の有名人となっていた。彼女が廊下をてくてくと歩けばみんなが振り返り、写真部の毒牙…もとい一眼レンズがいつも里香を狙っていた。
山上祭から今日に至るまで、僕は総計4人の写真部を捕まえ、もう里香につきまとうなと追い返した。
そんな里香がその日、1日の授業を終えて帰ろうとしていたとき、後ろから2人の女子生徒が噂話をしているのを聞いたらしい。
僕が言うのもなんだか、里香はよく噂される。大抵「里香先輩って可愛いよね。
」みたいな感じの誉め噂なのだが、たまに陰口を叩く輩もいる。その時の噂話は、前者と後者、どちらとも含まれていたと言う。
「里香先輩って美人だよね~~」
2人組の一方が口を開いた。
「学校一だよね~~」
もう一方も口を開いた。
普段里香は、「そうゆうのは面で向かって言えば良いのに。」などと僕には言っていたが、そんな事を喋る里香の顔は、そうやって自分が裏で誉められていることがまんざらでもないらしく、少し嬉しそうな表情をしていた。おそらくその時も、誇らしげな表情だっただろう。
「あ、でも……」
言い出した方の女子は、そこで口を濁らせたらしい。当然そこまで聞いたもう一方の女子は「でも?」と聞き返した。

「でも里香先輩、胸は小さいよね……」
「あぁ~、学校一かもね」

このやりとりが里香には相当ショックだったらしい。
今思えばあの日の帰り道、里香は途中スーパーの中に入っていったっけ。確か何を買うのかと思って後に付いていったら、200mLの牛乳パックを一気に5本買っていた。あれには僕は勿論、レジ打ちのオバチャンも少し驚いていた。買った牛乳
を飲んでいる里香に、「そんなに牛乳買ってどうすんだ!?」ってきいても、「……なんでもない!!」の一辺倒だった。

と、まぁそんな話をみゆきから聞いたのが4日前だ。
正直僕は里香の胸は大きかろうが小さかろうが別にどっちでも良かった。こういう女子のコンプレックスなんて大抵の男子には良く理解できないものだ。それに牛乳を飲めば胸が大きくなるのだろうか……?
しかし、3日前からの里香はどこか不機嫌だ。その原因がこれなら……
里香の機嫌を良くするために、僕はその日廊下を歩いていた里香に声をかけた。

「……なぁ、里香。」
「ん?」
早速機嫌が悪いみたいだ。
いや、それよりも気になるものがあった。里香の口からストローが伸びており、その先端は牛乳パックに刺さっていた。
「……まだ牛乳飲んでんのか。」
「で、裕一、なんか用?」
牛乳を飲み終わった里香が口からストローを離し、不機嫌なまま話した。
「え~と、あの~~……」
「…早くしてくれない?」
クシャっと音がした。見ると里香が飲み終えたばかりの牛乳パックを握りしめていた。あぁ、これは早く切り出した方が良いな。直感的にそう感じた僕は勇気を出して里香に言うことにした。
「あ、あのさ里香。お前、自分の胸に悩みがあるそうじゃねえか……」
目を逸らしながらそう言い終えて、チラリと里香の方を見た。思いっ切り目がつり上がっていた。
ヤバい。ヤバいぞ戒崎 裕一!!またもや僕の直感が僕に叫んできた。
早く謝れ!また殴られるぞ!!
でも僕は逃げも謝りもしなかった。何故だろう?今思えば、ここで謝っておけば良かったのかもしれない。
「裕一ぃ……」
恐ろしい声だった。もう拳を振り上げている。
「ま、まぁ話は最後まで聞けって!!な!あのさ、俺、お前の胸は別に小さくったって良いと思うぞ!うん!!」
「え……?」
僕の言葉を聞いて、里香は振り上げた拳を下ろした。よし、あと少し!
「そ…それに俺はその……小さい方が、好きだし……」
最後の方は我ながら恥ずかしくなって里香には聞き取れなかったかもしれない。
僕は恐る恐る里香に目をやった。
「裕一……」
潤んだ瞳で僕の方をジッと見つめていた里香は自分の腕を胸元で組んでいた。そんなに僕の言葉に感動したのだろうか。そう思うとそれはそれでまた恥ずかしい。
「い、いや~~~……ハハハハハ……ハ!?」
とりあえず笑っていた僕に悪寒が走った。
背筋が凍る。あんな感じになるのは夜に病院を抜け出したのが亜希子さんにバレた時以来だった。
  パキッ、ポキッ…
骨をならす音が聞こえる。しかも前の方から。
「ヤッパリ裕一も小さいと思ってるんだ……」
声のトーンが限りなく落ちている。
「え?いや、そーゆー訳じゃ……」
「この……バカ裕一!!」
「うわぁ!」
瞬間的に防御の構えをした僕に、拳とは違う、別の衝撃が左顔面全体に走った。
混乱しながらも、僕は里香の方を見た。さっきまで牛乳パックを握りつぶしていた里香の右手に、いつの間にか誰かの鞄があった。
骨をならしていたから、殴ってくるのかと思ってた僕にとっては、完全なフェイントだった。
「痛っ……」
左顔面が物凄くヒリヒリする。だがそういつまでも痛がってはいられない。里香の鞄攻撃の第2波、第3波が次々に僕の後頭部目掛けて迫っていた。
「バカ!バカ!!」
「うおっ!?痛い痛い!!里香やめろ!わ、分かった!俺が悪かったから!!!」
必死の弁解の末、ようやく里香は僕を鞄で叩くのをやめた。だが僕が火に油を注いだ事によって、里香の機嫌はさっきよりもよろしくない。僕がなにか喋り出せば、すぐまた殴りかかってきそうな雰囲気だった。
「裕一のバカ!」
「だから悪かったって。」
いつものやり取りと大して変わらなかった。僕がなにか余計な事を言って、里香が怒って、僕がヘコヘコとひたすら謝る。
そう、それは僕の望んだ日常の光景だった。でもその日は違ったんだ。

「裕一はわかってない!!」
いきなり里香が振り向いてそんな事を言い出した。その顔は、怒りながらも少し恥ずかしそうな表情をしていた。
「あたしは着やせするタイプだから……」
何を言い出すかと思ったらそんな事か。僕は呆れたが、あまりに里香が必死に弁解しているもんだったから、ついついにやけて、ワザと疑わしそうな目をしてやった。
「うっ……!!」
僕の顔を見て言葉を詰まらせた里香の目尻が、少し光った。里香には珍しい、悔し涙だった。
あぁ、こんな里香の表情もフィルムに残しておきたい……
にやけたままボーっとそんなことを考えていたせいで、里香が次の瞬間口にした言葉を上手く聞き取れなった。
「いいよ!ここで脱いで証拠見せるから!!」
「……え?」
間抜けな声を出した僕を無視して、里香はセーラー服のリボンを緩めた。シュルッとリボンの生地がこすれあう音を聞いて、僕は察した。
マジだ。里香は本気でやる。
僕が気づいた頃には、里香はすでにセーラー服の裾に手をかけていた。
「わ!り、里香!ちょっとタンマ!!」
叫んだ僕を、里香は冷ややかな目で睨み返してくる。
「何よ。疑ってるんでしょ?」
「ば、バカ!!ここ学校だぞ!分かってんのか!?」
「うるさい!!脱ぐったらぬぐ――――――!!!」
里香はそういって、えいとセーラー服を思い切りめくった。

 綺麗な里香のヘソが見えた。
あ、ヘソだ……
一瞬そんなことを考えたがそれどころではない。学校の、廊下の、近くに教室だってある場所で、いきなり里香が脱ぐと言いだしたのだ。どこに写真部が張り込んでいるかも分からないこんな場所で……
「やめろ、里香!!」
無我夢中だった。里香の手を取って、セーラー服を離そうとした。だが里香も負けじと食らいついた。
「ちょっ、バカ!!エッチ!!離してよ!!」
「離すのはお前だっつの!」
ギャーギャーとわめく僕と里香。誰かこの強情女を止めてくれ……。そう思っていると、救いの船、いや、僕を地獄へ落としに来た船は、いきなり大声を上げた。
「キャ―――――――――――――!!!!」
金切り声が廊下中に響いた。僕と里香は驚いて声の主を見た。そこに立っていたのは、えぇと……、そうだ、思い出した。確か去年、まだ僕がダブってなかった頃に同じクラスだった、藤堂 真美だ。
そんな余計なことを考えていた内に、近くの教室から、なんだなんだと1年連中が廊下に顔を出してきた。至る所から、里香先輩だ。里香先輩だわ。なんて声が聞こえてくる。そして藤堂 真美の方はと言うと、わなわなと顔を恐怖でひきつら
せながら僕を指差した。定かではないが方向からして僕の方だろう。
「ゆ、裕一君、いくらぁ、里香さんとぉ、彼女だからってぇ。」
なんだこの女は。喋り方がいちいち勘に障る。さっさと本題を言え本題を。
僕が心の中で毒づいていると、いきなり藤堂 真美の口調は早口になった。
「り、里香さんの服を無理矢理脱がそうとするなんて!!!」

……………

「……は?」
「……え?」
最初に沈黙を破ったのは僕だった。
次に里香。そして最後に、

『何ぃ~~~~~~!!!!』
1年連中が一斉に騒ぎ始めた。

「ち、ちょっと待てって!俺は別にそんなことは……な、なぁ里香、お前もなんか言ってや……」
里香の方を向いた僕は固まった。里香は泣いていた。
いや違った。
泣く演技だ。里香は泣き真似をしていたのだ。
「うっ……裕一、酷い…ううっ……」
完璧な演技だった。僕意外の全員がそのすすり泣きに騙されていたのだから。
女子生徒の何人かが里香に駆け寄った。大丈夫ですか。辛かったですね。口々に里香を慰める女子生徒。中にはハンカチを里香に差し出す者もいた。
おいおい、気づけよ。それは演技だぞ。どっからどうみても演技じゃないか。
そう叫ぼうとした瞬間、男女入り混じって大多数の後輩が僕に詰め寄ってきた。
 戒崎先輩酷いです見損ないましたアナタなら里香先輩を任せられると思っていた僕が馬鹿だったです人でなし非国民もしかして最初から無理矢理里香先輩と付き合ってたんじゃないんですかそうかだから文化祭で里香先輩戒崎先輩をはり倒したんだきっとそうだそうに違いない。
1年連中は好き勝手に僕に言ってくる。僕も言い返したかったが、多勢に無勢。
連中はドンドン僕に詰め寄ってくる。
僕はドンドン後ずさる。チラリと後ろを見た。階段がある。一気に駆け下りよう。でもどうやって?
後輩共は僕を逃がしてくれそうにない。隙ができれば一気に階段に走れるのに。

  キーンコーンカーンコーン♪

昼休みの終わるチャイムが鳴った。いつもは心を憂鬱にさせる鐘の音が、この時ばかりは天からの助けだと思った。
1年連中はチャイムの音で僕から一瞬気をそらした。その隙に、僕は階段まで全力疾走した。階段を2段抜かしで一気に降りて、そこから僕のクラスの教室にすぐさま入った。
 助かった……。
あの時はそう思っていたが、今思えば甘かったとしか言いようがない。


 ―結婚を目前に控えたカップル、まさかの破局―
 
昼休みから放課後までの3時間弱という長さは、雑誌の一面を飾るようなこの噂が学校中に広まるには十分すぎる時間だった。


<続>

COMMENTS

はじめました~討魔です~
SSすっごいよかったです!続きが気になります
俺は里香が胸なくてもぜんっぜんOK、むしろそっちの方が・・・(え

里香ノリ良いですねw裕一運悪すぎw
どんな風に仲直りするのか楽しみです。

鬼才的里香の演技力とその前に散った裕一に合唱&黙祷
SSお疲れ様でした~面白かったですw個人的意見ですが脱衣萌入ってるんで(´∀`*)激しく萌えましたw

 第三者に誤解されるという展開は、ラブコメの中では、ありがちな展開なんですが、相手が、その誤解をワザと誘発させるように行動するという話は、記憶に無いですね。
 二人がラブラブなSSばっかり読んでいた事もあり、非常に新鮮に感じました。里香の性格を上手く利用しているSSだと思います。
 この騒動が、どのような形で収束(崩壊?)していくのか楽しみです。

裕一も不幸だな、、、うん。そしてなにより里香!ありゃ怖いね。敵に回しちゃう裕一もばかだね。あー続きがみたい 

No title

4コマネタを発展させるとはすばらしい!

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