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作:安自矢意さん「戒崎夫婦結婚目前破局事件」第1話

「はぁ~~~~~……」
本日通算20回目の溜め息をついたところで、僕は学校の校門をくぐった。結局、登校中には里香どころかみゆきや司にすら会うことはなかった。
里香とは4日前から全く喋っていない。あの事件から、そりゃあもうぱったりと。


あの時の6限目が始まる頃には、僕と里香の事は、既にほとんどの2・3年生の 耳に入っていた。
周りからは授業中にも関わらず、「えーーっ!」だの、「あの2人が!?」だののちょっとした騒ぎになった。休み時間ともなると、「戒崎先輩!秋庭さんとのアレ、本当なんですか!?」などと目を若干充血させながら聞きにくる奴らもいた。
あの秋庭里香が彼氏と別れた。
あの秋庭里香が、である。こんなニュースに男子がジッとしていられるはずがなかった。
「バカヤロー!意味のわかんねーこと聞いてんじゃねえ!」
僕は投げかけられた質問をうやむやな答えで返した。どう答えれば良いか分からなかったからだ。
「あんなの嘘に決まってんだろ!!」なんて発言したらその言葉が嘘になる。現に里香は泣いたのだから。だからって嘘を言えるはずもない。だからそんな曖昧な事を言って追い返すしか無かった。
とにかくそんな質問責めやヒソヒソとした噂話をできるだけ気にせずに放課後を迎え、僕は1年が降りてくる階段の所で里香を待っていた。
怒ってやる、あぁ怒ってやるとも。多分言いくるめられるけど。そんな強気で弱気な考えを巡らせていると、7限目の終了を知らせる予鈴が鳴り響いた。
途端、上がガヤガヤと騒がしくなって、次第に人が階段から降りてきだした。
今日の1年の授業はどのクラスも7限まで。勿論里香も今し方今日の授業を全て終えたはずである。
今日は6限で学校から解放された僕は、そこで里香を待ち伏せしようと考えたわけだ。
降りてくる1年の半数が里香を待っている僕を実に冷たい目で睨んでいた。僕はその冷ややかな目をワザと気がつかない素振りを見せて、里香をひたすら待ち続けた。
 
 
30分経った。里香はまだ降りてこない。
1瞬里香はもう帰ったのでは?という考えが頭をよぎったが、そんなはずはない。僕は里香がまだ授業中の時間からすでにここに張り込んでいたのだから。そうやって自分に言い聞かせてみたが、僕の不安はつもっていくばかりだった。
 
「あれ?裕ちゃん?」
「あ、ホントだね。」
 
不意に横から声がした。みゆきと司だった。学校指定の鞄を持っているあたり、今から一緒に帰るのだろう。
「裕一、なにしてるの?」
ちょっと心配するような感じで司が言った。司にとって、放課後以降に僕が学校に残っていることは、珍しい事なのだろう。
「何って、里香待ってんだよ。」
『え?』
2人は息ピッタリにハモった。そして数秒間何も言わずに互いの顔を見合わせて、更に数秒、2人揃ってぼくを見た。その表情から、どことなく哀れみが見えた。
「何だよ、そんな顔して。」
沈黙が嫌になって僕は口を開いた。すると2人も意を決したように喋り出した。
「裕ちゃん、里香もう帰っちゃったよ。」
「は?」
僕はみゆきの言葉に理解に数秒かかった。そして今が分かった途端、還付無きまでに打ちのめされた。
「え?もう帰ったのか!?」
「うん。さっき廊下で里香にあって、今日は友達と帰るって。」
「で、でも俺、授業終わってからずっとここにいたけど、里香は通らなかったぞ!!?」
「だって里香、今日は逆側の階段から降りていったから。」
「マジかよ……」
僕の不安は見事に的中したのである。
里香は逃げた。僕はまんまと里香を逃していたのだ。
予想するべきだったんだ。里香なら僕の考えくらい簡単に読めると言うのに……
「あ…あのさ、裕一……」
肩を落としている僕に司が声をかけてきた。見上げると、まだ何も喋っていないというのに司の顔は真っ赤だった。またもや嫌な予感がし、そしてそれは当たった。
「里香ちゃんとのあれ……本当なの?」
まさか司まで聞いてくるとは思わなかった。どうやらみゆきも、それに関して少し興味があるみたいだ。
「お前ら……その噂信じてんのか?」
「え?あの噂嘘だったの?」
どうやら司は信じていたようである。コイツは疑うと言うことを知らないからな。
対してみゆきは、「ヤッパリね」とでも言いそうな表情だ。
「ほらね?だから言ったでしょ世古口君」
「そ、そうだよね。裕一と里香ちゃんに限ってそんなことないよね」
司の顔がみるみるうちに赤らみを増していく。くだらない噂を信じた自分が恥ずかしくなったのだろう。
その帰り道、僕は2人に噂の真相を教えた。藤堂真美の勘違いから、里香の嘘泣きまで、全て話した。
「でも、本を辿ればその勘違いの原因は裕ちゃんでしょ?」話し終えて、みゆきが言った。
「え?俺?」
「だって、里香が服を脱ぐって言いだしたのも、裕ちゃんが胸の話をしたからじゃない」
その言い方に、僕は少しイラついた。確かにアレは僕が切り出したからいけない。けど、けどさ、
「じゃあお前は司から学校で『水谷さんの胸って小さいね』って言われたら、服脱いで確かめさせるのかよ?」
「ゆっ、裕一!!!?」
司は顔を深紅に染めた。ホントにコイツは感情が表に出やすい。
一方みゆきは、別の感情で顔を赤くしていた。
「なっ、変なこと聞かないでよ!!」
「でも里香は本当に脱ぎだしたんだぜ?」
「うっ………」
みゆきが口ごもった。そう。誰だって胸の話をしただけでいきなり脱ぎ出すなんて思いもしない。
僕も確かに悪いが、ただ負けたくないからっていきなり服を脱ごうとする里香もどうかしてる。まぁ、お互い様ってところだ。なのに、里香は一方的に僕を悪人に仕立て上げた。いつもそうだが、里香は理不尽だ。本当に僕の意見はほとんど尊重されない。僕はそれを全て認識しているうえで里香と一緒にいようと思っているが、さすがに今回はシャレにならない。ホントに今回ばかりはマジ切れで怒ってやろうと思った。それが、さきに帰っただって?

「里香の奴……」
僕がそんな愚痴をこぼしていると、急に不安な面持ちで司が話しかけてきた。
「今日の里香ちゃん、エラく不機嫌だったなぁ。裕一の事なんて一言も喋らなかったし。」
「そうだね。ちゃんと話しておかないと、噂が本当になっちゃうよ?」
司に便乗して、みゆきも口を開いた。
「大丈夫だって。明日にはいつも通りに戻ってるさ。」


「でも、あの里香だよ?」

みゆきのその一言で僕の頭に戒崎コレクションが浮かんできた。
あの時の里香の怒り様は、今でも鮮明に覚えている。何せ、僕はあの時、何度も死にかけだのだから。
「ハハ……まさか……」
口では去勢を張ったが、内心の不安がどうも取り払えなかった。



で、先ほど話したとおり、僕と里香は次の日どころか4日経った今でも喋ることができない状況にある。
里香のアドレスにメールを送っても、返ってくる文章は「送信先のメールアドレスは、只今使用されておりません。」とだけ……
それに、どうやら最近里香は、あれからクラスの何人かと一緒に登校しているらしく、「無理矢理秋庭里香と付き合っていた極悪人」の汚名を着せられた僕が里香に話しかけることなど出来るはずがなかった。

おととい廊下で偶然里香が反対から歩いてきたときも、回りの一年たちが一斉に僕を睨んで、喋りたくても無理な状況だった。


「里香……」
誰にも聞こえないように僕はそう呟いた。里香の声が聞きたい。「何よ」でも「バカ」でも何でも良い。とにかく里香のあの凛とした声を僕に向けて欲しい。
自転車を指定の場所に止めて、そんなことを考えながらフラフラと教室に向かう僕の肩を、誰かがポンと叩いた。
「まさか」と思いながらも少し期待した僕が馬鹿だった。そこには、誰が見ても綺麗だと思うような顔立ちの里香ではなく、誰が見てもブサイクだとしか思えない顔立ちの山西が立っていた。
「よぅ戒崎!今日も生きてるか?」
あぁ、違う。僕の求める声はこんな失礼で教養のないような声じゃないのに。
21回目のため息を吐いて、ようやく僕は口を開くことができた。
「何だよ山西」
酷く冷めた言葉だった。一瞬僕の声とは思えなかったほどだ。
「冷たてーなー。お前が里香ちゃんと別れたって聞いたから、慰めにきてやったんだろーが。」
「俺はまだ里香と別れてねぇ。」
「まぁ、気にするな。女なんてそこら中にいるじゃねえか。」
「だから…」
「だいたいよー、お前と里香ちゃんが付き合ってるってのがそもそもおかしいんだよ。里香ちゃんはな、お前よりも男前の奴と…」
「なぁ山西」
「なんだ?」
「殴って良いか?いや、殴らせてくれ。頼む」
「じ、冗談だって……」
僕が本気で拳を構えたので、山西はからかうのを止めた。
「あ~~、まぁなんだ。諦めなきゃなんとかなるさ。カップルなんてそんなもんだろ」
「……そんなもんかな…?」
「そんなもんだって。じゃ、俺は先行ってるぜ」
「おぅ」
そういって山西はヘラヘラ笑いながら校舎へ入っていった。
なんとかなる…
その言葉だけが、胸に残っている。
そうだ。なんとかなるさ。今までもそうだったじゃないか。夜の砲台山も、戒崎コレクションも、里香の学校見学も、なんとかなったじゃないか。きっと今回だって、なんとかなる…いや、僕がなんとかしなきゃいけないんだ。そうだろ?戒崎裕一。
言い聞かせると心が落ち着いた。屈辱だが、あのバカ山西に少し励まされた。
「……よし。」
何かを決意して僕は校舎の中へ入っていった。が、その日も決意とは裏腹にいつもの日常があった。
1年程前の、僕の近くに里香が感じられない、退屈すぎる日常が。


     φ


「ただいまー……」
「あら、お帰りなさい」
母親の声を無視して、僕は階段を駆け上り、真っ先に部屋のベッドにダイブした。
今日も里香とは話せず仕舞だ。今から里香の家に行くと言う手もあるが、どうせ体よく追い返されるのが目に見えている。
「あぁ………もぅ………里香~~。」
情けない声が口から漏れた。
今日1日はずっと里香の事しか考えていなかった。まぁ今日だけではなく、言葉を交わさなくなってからはそれは毎日の事なのだが。
この際、どっちが悪かったかなんてどうでも良いんだ。疑いが晴れて、また里香と登下校できるのなら、土下座でも何でもしてやるさ。でも、何か口実が欲しい。里香と話す為の、絶好の口実が。でも何をその口実にしたらいいんだ。あぁ、くそ。全然思い付かないぞ。
不意に後頭部が何かに当たった。ブツブツ言いながらそれを手に取った僕は脳に衝撃が走った。
それは、小説だった。10日くらい前に、里香が僕に「読め」と貸してくれたものだ。
そうだ、これだ。簡単じゃないか。これを口実にすれは良いんだ。明日コレを里香に返そう。返すだけなら、里香の周りを取り囲んでる奴らも、何も言わないはずだ。それで返す時に「ごめん」って言えば良いんだ。完璧じゃないか。
里香の事しか考えてられなかった僕は、この程度の作戦しか思い付かなかった。


     φ


次の日の昼休み。僕は階段を駆け上がって、ギクシャクしながら廊下を歩いていた。
本を返すとき、里香はなんて言うだろうか。いや、それ以前に、許してくれるかな……
考えてるうちに、里香の教室の引き戸の前に着いた。心臓の鼓動がいつもより早く感じる。一瞬、ほんの一瞬だけ、その教室が里香の病室に思えた。
落ち着け、戒崎裕一。ここは違う。病院じゃない。夏目も、里香のお母さんも、亜希子さんもいない。いける。いくんだ戒崎裕一。
意を決して僕は引き戸に手を触れた。
ガラガラッ
戸が開いた。僕は開けていない。驚いて前を見た。意外な人物が立っていた。
吉崎多香子だった。
「戒崎先輩?」
「お、おぅ。」
「里香先輩ならいませんよ。」
「え?いないのか?」
「ええ……なんか用ですか?」
「あ、いや、借りてた本を……」
「あぁ、じゃあ私が渡しておきますね。」
吉崎多香子は僕の手から里香の本を取り上げた。
「じゃあ。里香先輩に伝えておきます。」
「え?あ、ちょっ……」

ガラガラッ…ピシャッ!

「………」
僕は呆然と立ちすくした。周りが変な目で見ていたが、そんなことを考える余裕は無かった。
僕の作戦は、ほんの数十秒で失敗に終わった。


<<続>

COMMENTS

GJ!
原作の雰囲気が良く出てるSSですね。
特に、このSSで描かれてるような里香の裕一への冷たい接し方、どうも俺だと書ききれないようなので素直に羨ましいですw
後は、二次創作で吉崎多香子の出番が拝めるのが自分でも意外に嬉しかったりw
里香と絡んでくれツンデレ多香子~~!
それでは、続きも楽しみに待っています……。

吉崎さんktkrw裕一の妙案を一撃粉砕発破w嗚呼これは裕一死亡フラグ立ったなw失礼自殺……いや主人公死んだらマズいよなウン
次回もワクテカしまくりながら楽しみにしてますガチで(`・ω・´)

「阿呆な・・・・・・」と呟いてしまった。グッジョブ!!
とりあえずみゆきと司に萌えた。いや、みゆきに萌えた。グッジョブ!!
そして裕一のヘタレっぷりにワロタwwwwwグッジョブwwwww

里香が出てこないのがさびしいですが今後の展開に期待してます!

どうも、気になります
次がとても気になります

意外とこれは里香に頼まれていたりして・・・w

 戒崎コレクションの話を読んでいた時、裕一を可愛そうに感じたオイラですが、このSSを読んでいる時も、同じような感情が沸いてきました。それだけ良く出来ているという事なんでしょう。

本物の半月にそっくりなかきかたでしたね~。裕一のヘタレさ。里香の復習(?)など書き方がそっくりでしたよ。もしかしたら、これが天の才能ってやつですかね。ともかくすごい。すごすぎます。続きがきになりますね~。ではさいなら。

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