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作:安自矢意さん「戒崎夫婦結婚目前破局事件」第4話

空には雲が多く浮かぶこの日の放課後、窓越しに照らしてくる太陽の光をウザったく感じながら、僕は廊下を歩いていた。
別に今から帰る訳じゃない。そもそも、今の僕の進行方向は、校舎を出るには必ず通らなければならない靴箱と、全くの逆方向だ。
まったく司め、こんな時に限って僕を頼ってくるんだから。
そう、僕の向かう先は家庭科室。司に来てくれと頼まれたのだ。


     φ


「お~~い、裕一~!」
1年の教室が立ち並ぶ3階でキョロキョロしていた僕は、司の大声に呼び止められた。
何故3階にいたかって?決まってる。里香を探していた。教室の中に入るのは無理だろうから、外の廊下で待っていた。けれど一向に里香は出てこない。図書室では?と思い、急いで行ったが、いなかった。司が僕に声をかけたのは、里香が見つからない事に肩を落としていた、そんなときだった。
「司?」
振り返った僕の視界に、司の真っ赤な顔が写った。司は普段、大声なんて出すような性格じゃない。こんなに大勢の人がいるところじゃ、司の声は小さくなる一方なのだ。そんな司が、大声を上げた。僕は、そんな事実に驚いていた。
「どうしたんだよ司。そんな大声出して。」
「え?あ、うん……」
司の顔が更に赤くなる。どうやら今やっと自分の声の音量に気づいたようだ。
「……で、なんか用か?」
向こうが切り出しそうにもなかったので、こちらから助け船を出すことにした。
すると司は、簡単に乗ってきた。
「あ、そうだった……。……あのさ、裕一」
ガシッと司の巨大な手が僕の肩を掴んだ。情けないほどひょろい僕の肩は、その手に簡単に収まる。これは、逃げるなと言う事なのだろうか。
思わず司の顔を見る。目があった。司の細い目から、真剣そのものの眼光をかいま見ることができた。(とは言っても、司は単に目が細すぎるだけで、眼光は常時真剣そのものなのだが。)
「な、何だよ……」
「えと、その……」
結構ビビってしまう。しかし、次の瞬間司の口から出た言葉は、今までのシリアスさがブチ壊れるほどあっけないものだった。
「今日の放課後、家庭科室でいつもみたいに料理を作るんだけど、人手が足りなくてさ。裕一、手伝ってくれない?」
「……は?」
沈黙が流れる。
そんな中、僕の脳だけがロクにない知識を最大限使って状況を理解しようとフル稼動する。
珍しく大声で呼び止められた。
おもむろに肩をがっしりと掴まれた。
目から真剣見のある鋭い眼光を見た。
いつもとは違うそんな司。だが放たれた言葉が、彼が司以外の何者でもない事を物語った。
「……」
その後しばらくしても、僕はそこに拍子抜けしたままつっ立っていた。


     φ


結局その後、断りきれずに(断れば司の手が僕の肩を粉砕するかもしれなかった。勿論故意に、ではない。)言われるまま来てしまった。
まぁ親友の頼みだ。僕も何度も世話になっているし、たまには良いだろう……と思っていた。さっきまで。
そう、なにかが変だ。
司が僕に最後に家庭科室に手伝いに来てくれと言ったのは、もう1年近く前になる。まだ僕が留年していなかったころだ。
司はああ見えて、なかなか友達が多い。主に料理とプロレス、そして天文学繋がりの。だからわざわざ留年野郎の僕なんかではなくても、クラスにいる奴に頼めば良いことじゃないか。何故僕なんだ?
そしてもう一つ。僕は何をすればいいのか、という事である。
昼休みにそう司に言ったとき、司は「来れば分かるよ」と曖昧な返事をしていた。「裕一にしか出来ないことなんだ」とも言っていた。
僕にしか出来ないこと?他の奴には出来ないこと?一体なんだ?考えても思いつかない。そうするうちに、僕は家庭科室の前まで来ていた。
部屋の向こうからは女子の騒ぎ声や食器や道具がぶつかる音なども聞こえず、シンと静まり返っている。これも不自然な事だ。まだ始まってないのだろうか。
考えても仕方がないので、とりあえず中に入ることにした。まだ集まってなくても、司は来てるだろう。その時に、僕が何をすればいいのか聞けばいい。
僕は取っ手を持ち、清潔感漂う白い扉を、軽く引いた。

   ガラガラッ

「司~~、来たぞ……」
次の瞬間、僕は心臓が破裂するかと思った。
戸を開けた瞬間、風に揺られ、窓から差し込む逆光に浮かび上がる、無数の黒い線を見た。

――来れば分かるよ。
――裕一にしか出来ないことなんだ。

司の言葉が、僕の脳裏を駆け回る。

そうか。

司、そういうことか。

確かに、僕にしか出来ないことだ。


     φ


「ふぅ……」
世古口司は、戒崎裕一が家庭科室に入るのを遠くから確認して、ようやく一息つくことができた。
正直、昼休みに裕一を誘うときは緊張のあまり自分が何をしてなんと言ったか今でも鮮明に思い出せない。
そんな状態だったからこそ、戒崎裕一が家庭科室に入った事に安堵の息が漏れる。
「世古口君、裕ちゃんの方、うまくいった?」
後ろから声がした。
水谷みゆきが、そこにいた。
「うん、ちゃんと家庭科室に入ってくれたよ」
「そう、良かった」
そう言って、世古口司同様曲がり角からひょいと顔だけを出す。男女2人が揃って顔のみを廊下に出すその光景は、なんとも不自然きわまりないものだった。
「裕ちゃん、戸閉めちゃってるね」
中の状況が把握出来ないことに歯がゆさを感じた水谷みゆきが漏らした。
「裕一、変なところでちゃっかりしてるから」
世古口司が言葉を返す。
「じゃあ里香の彼氏になれたのも裕ちゃんがちゃっかりしてたから?」
「あ、かもね」
そう言って、2人は笑いあった。無論、廊下から顔を突き出したままで。
「……そういえばさ」
話題を切り替えたのは、世古口司の方である。
「水谷さん、よく誘えたね。僕、断られるかもって心配してたんだけど」
「え?あ、あぁ、まぁちょっとね」
実際のところ、水谷みゆきは何もしていないと言っても良かった。
ある1人の後輩に、自分の役割を頼んだだけである。
もし自分が行っていたら、世古口司の言うとおり拒絶されていただろう。
1人の後輩とは他でもない。
吉崎多香子の事であった。


     φ


昼休みの事だ。

「里香先輩!」
私は水谷先輩に頼まれたことを実行する事にした。
自分の机で本を読んでいた里香先輩は、名前を呼ばれて一瞬驚いていたけど、声の主が私だと分かって少し安心したようだ。
「あ、吉崎さん。何?」
怒りでも喜びでもない。ほんの少しだけ悲しみを漂わせた声。
理由は分かっている。戒崎先輩だ。
あの時自分が余計な口を挟まなければ、こんな声も聞くことはなかったはずだ。
罪滅ぼしというわけではない。ただ、「いつもらしくない里香先輩」が見ていられなかった。それだけだ。
「里香先輩、世古口先輩って知ってますよね?」
「え?あ、うん……」
里香先輩は口ごもった。世古口先輩と戒崎先輩が親友だからだろう。
長々と話すと色々と面倒臭そうだったので、本題をさっさと言うことにした。
「今日、世古口先輩が料理教室やるみたいなんですけど、里香先輩、一緒に行きません?」
「一緒に?」
「そう、一緒に!」
そこまで言うと、里香先輩がムスッとした表情になった。
たぶん、私が自分を元気づけようとしていると思っているのだろう。
実際のところは違うが、そう思われていた方がこちらとしては都合が良い。
「悪いけど……」
「今日は!」
断られるところを、薄皮1枚の大声でなんとか留める。里香先輩は頑固な人だから、1度そう決めたら絶対に揺るがない。この場合も、断られた時点で試合終了だ。
「て、手作りプリン、作るらしいです、よ……」
実際は何も作らない。この方が里香先輩の食いつきが良いかなと思って、嘘を言ってみた。
我ながらどうかとは思ったがしかし、里香先輩の反応は予想以上の物だった。
「手作りプリン」
「へ?」
「分かった。行こ?」
意外にも里香先輩は、甘党だった。


そういうわけで、「少し用があるから先に行っててほしい」と里香先輩に言って教室を出た私は、里香先輩が家庭科室へ向かうのを見計らって再び教室に戻り、意気揚々と帰り支度をしているわけだ。
正直、一部始終見ておきたいが、結局後は2人がどうするかによって決まる訳で、私が見るのは無粋というものだ。それに、明日の里香先輩の表情を見れば作戦は成功したかどうかは簡単に検討がつく。つまり、「明日のお楽しみ」ということだ。
そう考えると明日が本当に楽しみだ。今日は部活も休みだし、さっさと帰ってテレビでも観よう。
そんな感じで良い気分に浸っていた私の耳に、会話が入ってきた。

「あ、藤堂さん」
「こんにちはぁ、里香さん、いるぅ?」
「あ、里香先輩なら、多分家庭科室ですよ」
「えっ?家庭科室!?」
「は、はい……あ、藤堂さん?どこ行くんですか!?」


何故だろう。私はその会話に、酷く不安を覚えた。


<続>

COMMENTS

最後の切り方が上手い!!!
>何故だろう。私はその会話に、酷く不安を覚えた。
 この一行のせいで、次が待ちどおしくて仕方ありません。
はやく次~。じらしちゃイヤンw。

ほほう……気になる展開が続くなぁw
裕一も里香も良い仲間達を持ったもんです。
すれ違いまくりの二人に、二人っきりになれる時間を用意してくれるなんて!
>「は、はい……あ、藤堂さん?どこ行くんですか!?」
 ちょwww藤堂自重しろwww
確か、原作では演劇の主役を里香に取られたキャラでしたよね。
ここで絡めてくるとは、上手いと思います。
蛇足ですが、『これがエロありなら家庭科室の調理器具使ってプレイだな』とか考えてしまう俺って……

きになるきになる

相変わらずやってくれますねー、司くんたち。

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