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作:安自矢意さん「戒崎夫婦結婚目前破局事件 最終話」

「……里香?」
「……」
里香はたった一言だけ言って、またそっぽを向いてしまった。こんな里香の顔も珍しいな。あぁ、しまった。今日はカメラを持ってきてないんだ。惜しいことをしたな。
と、僕の頭はまた変なことを考えていた。どうも僕は、里香の事になると調子が狂う。
待て待て、さっき里香はなんて言った?
「そんなことを言うためだけに来たの」だったっけ。一体なんの事だろう。僕は里香よりも頭が悪いんだ。そんな問題出されたってサッパリ分からない。ヤッパリ、里香といると調子が狂う。
正確に言ってしまえば、ここに来たのは「司の料理の手伝い」の為に来ただけで、別に「里香に謝る」為に来た訳じゃない。いや、謝りたかったのは確かだけどさ。
でも里香が言いたいことってのは、そういうことじゃないくらいなら、僕にだって分かる。じゃあ一体なんだ?
少しの間考えてみた。僕が黙ってる間にも、里香の機嫌は下り坂を爆走中なんだろうが、この場合は仕方ないだろう。
けど、なんにも思いつかない。謝る以外に僕がする事ってなんだ。いや、もしかして里香は別の事で怒ってるのだろうか。
でもそれはそれで、別の事って何なんだ?もしかしたら僕は、知らない内にまた里香を怒らせていたのだろうか。
考えれば考えるほど、頭の中はこんがらがってますます分からなくなる。

――あんた、その花が気に入ったんだろ?

不意に、亜希子さんの声を思い浮かべた。昨日と同じ、怒涛に包まれた怒りの声。

――自分のものにしたいんだろ!?

そうだ。僕は里香を求めている。里香を、この腕の中に収めたい。

――だったら周りの邪魔な雑草が何だって言うんだ。

そうだ。僕はそう決意した。あの夜、輝く月の下で。

――邪魔ならむしりとっちまえば良いだろ!気の済むまで、その花が手に入りやすくなるまで!!

あぁ、むしり取ったさ。邪魔な物は根こそぎ刈り取った。司やみゆきのおかげだけどさ。
でも問題はそこじゃなかったんだ。確かに雑草は引きちぎった。けど、花すらも引きちぎる訳にはいかない。僕は、花をどうやって摘み取れば良いのかが分からない。
全く情けない話だ。目の前にあるっていうのに、どうすれば良いのか分からなくて、どうすることもできないなんて。

「里香……?」
確認するように、僕はもう一度名前を呼ぶ。けれど、
「……」
やっぱり里香は無言のままだった。
語らない里香の正面は一向に向き直ろうとしない。僕が見ることができるのは長いサラサラの髪と、背中、そしてスカートからすらりと細く伸びた足だけだった。

里香、なんでこっち向かないんだよ。顔見せてくれよ。なんか喋ってくれよ。怒鳴り声でもなんでもいい、なんならけなしてくれたって良い。里香の声が聞けるなら、十分本望さ。こっち向いてさ、「うるさい」とか「バカ」とか言いながら鞄をブンブン振り回すんだ。危険を感じた僕がさっさとへいこら謝ってさ。今までそうだったじゃないか。だからさ、里香、こっち向いてくれよ。なんか言ってくれよ。

里香、お前、一体何に怒ってるんだよ。

その時、僕は気づいた。

里香の背中に違和感を感じた。おかしい。別に里香に文句をつける訳じゃない。
髪が伸びてるだとか、ちょっと太ってるとか、そんな類の物じゃない。根本的に、何かが足りない。
そこにいるのは確かに里香なのに、何故か僕には、里香が半分しかいないような、そんな気がした。
何故だろう。何故里香の背中がこんなにも淋しい見えるんだろう。まるで、今の僕にそっくりじゃ――





僕はようやく気付いた。
里香になにかが足りない。里香の背中がなんだか淋しい。今の僕とそっくりだ。

そう、やっと気付けたんだ。
里香がなんでこんなに怒ってて、なんでこんなに淋しそうなのかを。


「里香……」

呟いて、僕は足を一歩踏み出す。
前に運ぶ右足は、思った以上に軽かった。この重苦しい雰囲気が嘘のように、僕の足は着々と里香に進んでいった。里香の背中まで、あっという間だった。
「里香」
「………」
答えは返ってこなかった。でもそれでも良い。僕は里香に言いたいことを言うだけだ。その後に里香が何をしても、それは里香の勝手で、僕は文句を言うつもりはない。大体、里香に文句なんてつけたら、それこそ殴る蹴る喚くのオンパレードだ。
そうならないことをひっそりと祈りつつ、僕は口を開いた。
「ごめん」
なんら変わらない。さっきと一緒でただ謝るだけ。違うのは、何に対して謝ってるか、それだけさ。
「そばにいてやれなくて、ホントにごめん」
「………」

僕がそばにいてやれなかった。いや、いてやらなかった。
だから里香は怒った。
だから里香の背中が淋しかった。
そう、だからまるで、里香が半分しかないような気がしたんだ。

「今度こそ、ちゃんとするよ」

ゆっくりと言葉をつなぎ合わせる。

「もう、絶対離れない」

里香の背中が震えているような気がした。

「ずっと、ずっと一緒にいるよ。」

ありったけの思いを伝えようと思った。ダサくったってクサくったって良いと思った。

「里香、俺が守るから、だから……」

許してくれ。
そう言いかけた。けど、言えなかった。僕の口が、何かで塞がれた。温かくて、柔らかくて、不思議な感じ。
それが何か理解するのに、10秒はかかったと思う。
これって、許してやるってことかな。

遠くで、ドアが開くような音がした。


     φ


「な…………」
思い切りドアを開けた藤堂 真美はその場の光景に絶句した。
逆光でできた2つの影が、口元のあたりで繋がり、1つになった。
「藤堂先輩、一体どうし……」
藤堂の後を付いてきた3人の1年女子が、藤堂と同じく言葉を失った。
「そこの人達、ちょっと、待っ……た……」
次に吉崎 多香子が、更に
「吉崎さん、ちょっと早っ………」
戒崎 裕一の幼なじみである水谷みゆきが、先客の4人と同様のリアクションをとり、
「秋庭さん!あ……の……」
「柿崎さん!い、今里香ちゃんは用……事……」
続いて本演劇部部長柿崎 奈々、戒崎 裕一の親友世古口 司も口をパクパクさせ、締めくくりに

「あ、いたいた。おい司ぁ、昨日借りたゲームだけど……ぉ……」

クラスから空気が読めないと陰口をしばしば叩かれる山西 保すら、その光景を言葉にする事ができなかった。

その空間はしばらくの間、全くの無音に包まれた。


     φ


「ふぅ…………」
自転車で上り坂を急いで漕いだ僕は、その後に来た疲労の大きさに、思わず息を漏らしてしまった。
僕は一体何を緊張してるんだ。大丈夫、心配ないさ。きっといる。あともう少し上がれば、きっとそこに……
「よぅ戒崎!ヤケに張り切ってんな!」「うぉ!?……なんだ。お前かよ」
驚いて損した。ただの山西じゃないか。まったくコイツは人騒がせな事をしてくれる。
いつもそうだ。コイツはウザいくせに時々鬱になったりもする。励ます身にもなれ。

「なんだはないだろー。登校中の親友に声かけて何が悪いんだよ?」
「朝からうるさいな。お前は」
「ん?なんかお前、はぐらかそうとしてねぇ?」
くそ。バレた。山西ごときにバレるなんて、人生最大の汚点だな。
「なぁに、里香ちゃんのことなら気にすんなって。昨日あんなことしといて。まだ怒ってるってことはないだろ」
あぁ、そうだった。コイツも見てたんだっけ。なんか声で言われると恥ずかしいな。
「じゃ、頑張れよ。もしまだ里香ちゃん怒ってるんだったら、今度は俺が……」
「うるせぇ。さっさと行けよ」
「うはは」
下品な笑い声を上げて、山西は自転車を人漕ぎ、去っていった。変に人を煽りやがって。余計緊張してきたじゃねぇか。

「裕一~!」
「裕ちゃ~ん!」
再び前に進もうとした僕の背後からまた声がした。今度は二人組、やっぱり司とみゆきだった。
山西の時と違って、なんだか安心感があるな。
でも、その2人の顔が妙にニヤニヤしている。どうせ、山西と同じようなことを言うに決まっているさ。
「よぅ、相変わらずラブラブだな、お前ら」
2人に向かって、僕は言った。みゆきはともかく、司は顔を真っ赤にするだろうな。
ところが、僕の予想に反して2人はニヤニヤを止めなかった。みゆきに至っては、ニヤニヤと言うよりニタニタって感じだ。なんだか気味が悪い。
「へぇ~、そっちこそ、学校内であんなことしてたくせに。」
ニタニタしたまま、みゆきが言った。なんだか、僕に嫌がらせをするときの亜希子さんに似ている。そんな表情だ。
「まだ今日は里香ちゃんに会ってないんでしょ?早く行ってあげなよ。里香ちゃん、待ってると思うよ」
司までもがこんな調子だ。あの時僕らが説教した時もこんな感じだった。
「あぁ、もう分かったよ!行けばいいんだろ!?行ってやるさ!!」
付け入る隙もないので、僕はその場から逃げ出す事にした。足をペダルに置いて、勢い良く踏み込む。後ろから、「頑張って~」と聞こえてきた。……ような気がする。


     φ


「キャ――――――――!!」
急に轟いた叫び声に驚いて、思わず僕らは唇を話した。
見ると、家庭科室の入り口に、大人数が立ち尽くしている。
後ろの人影はイマイチよく分からないが、最前列の藤堂と柿崎の元演劇部2人に、知らない女子生徒が3人だけは、確認することができた。
どうやら、さっきの金切り声は、その知らない女子生徒のうちの1人のようだった。口に手を当て、顔を赤らめ、わなわなと震えている。
瞬間、一週間前の出来事を思い出した。いきなり制服を脱ぎ出す里香。必死に止めようとする僕。金切り声を上げる藤堂。
マズい。完全にまた誤解された。そう覚悟した。
だけど、向こうの放った言葉は予想に反して狂喜乱舞していた。
「里香先輩、戒崎先輩にキ、キキキキ……」
最初に叫んだ女子が言った。
「里香先輩、大胆~~!」
その女子の右隣の女子が喚いた。
「里香先輩、戒崎先輩に酷いことされたんじゃないのかな……?」
一番右端にいた女子が呟いた。
私達の勘違いだったんだよ。きっとそうだよ。こうしちゃいられないね。早くみんなに伝えよう。
おおむねそんな会話をマシンガントークで繰り広げる女子3人。
僕らはと言えばその状況が理解できずに呆然としているだけで、それは向こう側の女子3人組以外の面子も同じようだった。

と、僕はそこに見覚えのある後ろ姿を見つけた。
しゃがみこんでその場を離れようとしている。ただ、しゃがみこんでいても背中のでかいヤツが約一名いたので、見つけるのはそう難しくなかった。
里香の方を振り向く。表情で分かる。どうやら里香も僕と同じ事が言いたいらしい。
僕は、思いっきり叫ぶ事にした。すぐ後に、里香も叫んだ。
「司ぁ!!」「みゆき!」

その後、僕は里香と一緒に、司、みゆき、そして共犯らしかった吉崎にたっぷりと説教してやった。
僕と里香の事を広めようと走っていった女子3人組は放っておく事にした。
勝手に誤解が解けるならそれに越したことはない。そうだろう?

窓越しに僕らを照らす光が、その時は何故か、それほどウザったく感じなかった。


     φ


自転車で駆け上がる通学路。いつもはこの辺りで丁度追い付くんだ。だけど、今日は、いや、今日もそこにはいなかった。
不安に煽られ、より一層ペダルを強く踏み込む。
緩やかなカーブを曲がり、もう一つ先のを曲がったその先に、
いた。

見間違うハズがない。長い髪、揺れるスカートの裾。重そうな鞄をヨイショって感じで持っている。
それは、僕が追い付く前に、こっちを振り向き、ニッコリ笑って、言った。
「おはよう、裕一」
凛とした声だった。昨日一週間の出来事がまるでなかったかのようにそれ……里香は、僕に言葉を向けてくれた。
「おはよう、里香」
僕もおんなじように言った。近づいて、自転車を降りながら。
「うふふ」
笑いながら、里香はきびすを返してまた歩きだした。
なんだかバカにされたような笑い方だったけど、ここでまた里香を怒らせては元も子もない。何も言わず、僕もそれに続いた。
「うふふ」
まだ笑ってる。一体なんだよ。僕の顔になんか付いてんのか?
いい加減じれてきたので、こっちから聞くことにした。
「さっきから何笑ってんだよ」
「ん?べっつにー」
「なんだよそりゃ」
しらばっくれやがった。まぁいいや。最初から期待もしてないさ。
そうやって歩いていると、校門が見えてきた。
憂鬱に長く感じていた通学路も、里香と一緒だとあっという間だ。
校門を入ったところで、里香は立ち止まり、ポケットから紺色のゴムを取り出し口を加えた。1ヶ月前、里香のゴムになってみてぇと冗談で言ったら、本気でぶっ叩かれたのを思い出した。あれは痛かったな。
いつもの光景、いつもの里香。僕が待ち望み、求めていたものが、遂にまた戻ってきたんだ。

僕は自分のスポーツバックからあるものを取り出し、里香に向ける。里香を写すのも何日ぶりだろう。思いながら、声をかけた。

「なぁ、里香」
「ん?な…あっ!」
気づいた時にはもう遅い。僕は既に、シャッターを押していたのだから。

  カシャッ!

僕はそうやって、なんでもなく、でもとんでもなく、それでいてかけがえのなく素晴らしい日常の1コマをまた1つ、カメラで切り取った。


〈了〉

COMMENTS

ハァ~やっぱり二人はこうじゃないとダメッスよね~(*´Д`)=зなんか安心fしたッスf^_^;
最後の終わりかたが物凄く良かったと思います(*^-^)bあのの一言?で最後が一気に引き締まった感じがしました!!
なっがーいSSお疲れ様ですm(_ _)m

やっぱいぃっすよねぇ半月(^^)v
それはそうと、長いSSお疲れ様です!読みごたえがありましたおもしろかったです。
またこういう長編書いてほしいなぁo(^-^)o(笑)

今までどうなるか心配しつつ読んでいましたが、最後には上手くハッピーエンドになってよかったです。里香の台詞が少ないのもまた味わいがあって良いですね。
次はぜひこのテイストで18禁のを希望しますw

イイ!
この一言に尽きますね。
文章の中に、本当に半月が好きなんだという雰囲気が漂っていましたよ。
お疲れ様でした。

いやー、おつかれさまです。すごいです。かんどうしました。また、このような作品を書いてください。期待して待ちたいと思います。\(^o^)/

惚れた。結婚してください!
ああ、いや、こういう健全なSSは大好きです。エロより好きです。
次は是非みゆきが里香を狙う百合を!え?エロ嫌いじゃないのかって?またまたご冗談を、エロが嫌いな男子なんていないですw

よかったです!原作と同じく読み終わった後にあたたかい気持ちになれました。
裕一がかなりカッコイイっす!

やはり半月サイコー!
次回作期待しています。

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