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作:キソケさん 絵:しかばねさん『親父のカメラ【前編】』

※18禁
親父のカメラ  【前編】

文 Ξキソケ
絵 しかばね

 きっかけは、あのカメラを見つけたことだった。
―――ある休日の午後、僕が母親の命令で薄暗くて埃っぽい物置の掃除を手伝っていると、古ぼけた紙箱を見つけた。箱はかなりの期間に渡って開けられていないようで、雑巾で外を拭いてから中身を開けて見てみると………そこには古ぼけたカメラと、その関連部品が収められていた。傷を防いだり緩衝の為に、ビニール袋に入れられたり、潰すのが楽しいプチプチの付いたシートでガードされている。ただ、明らかにどれも薄汚れていた。あの父親の遺したものだろうか?と当然のように思って、隣で作業している母親に尋ねてみたら、こんなありがちな答えが返ってくる。
「あぁ、そのカメラ、お父さんが若い頃から気に入ってたものなんだけど……。確か、旅行先でちょっと高い所からいい景色の写真を撮ってた時に、手を滑らせて落として壊しちゃったらしくてね」
「ふ~ん……」
つまり、あのクソ親父は愛用していたカメラを自分のミスで壊してしまった。結局、修理も出来ないくらいに内部にダメージを受けたであろうそのカメラを、外見的には大きなキズがないそのカメラを、思い切って捨てることも出来なかった。未練がましく後生大事にとっておいただけなのだ。こんな物置にまで押し込んでしまって。ただ、それだけの話しということらしい。本当に、まったく、あの親父らしいどうしようもないエピソードだと、僕は苦笑いしながら同意してこう言う。
「はは、そういうことか。 だから今まで俺が知らなかったし、カメラもこんな半端な残し方なんだね」
「半端って?」
今は亡き夫に関する話題に興味が湧いたのか、母親が一時手を動かすのを止めて僕に聞いてくる。
「あぁ、だってちゃんとした製品の箱が何故か無いし、置く場所やしまい方にしたって、まだ使うカメラをとっておくって感じじゃないから。色々とこれじゃ問題ありだよ。湿度とか」
具体的なことを言うと長くなるので少し短めに話しを切って答えたが、それでも母親の疑問は解消し、少し懐かしさを感じたみたいだ。
「へぇ~、解説どうもね。……しっかし、裕一も最近はカメラのことに詳しくなったわねぇ」
素直に感心している様子で、母親にそう言われてしまった。まぁ、里香の写真をちゃんと可愛く撮らないといけないから、当たり前にカメラには詳しくなる。
そういうことを考えていると、僕は意外と良いこと思いついた。なかなか古いし高そうだし、型番からはちょっとわからないけどなかなかの値打ちのあるモノだと考えたからだ。それに、カメラなんてモノの中身なんてなかなか見られる機会はない。分解したあと上手く組み立てられれば、綺麗に飾ってちょっとインテリアにもなる。
考えをまとめた僕は、箱を両手で掴んで母親の前に見せながらこう言ってみる。
「ところでさ、このカメラ、俺の部屋に持って帰って弄ってみていいかな? ちょっとバラしてみたいんだけど」
「うん、別にいいけど……箱も中身も汚いみたいだから、ちゃんと雑巾とかで拭いてから持ってくのよ?」
「わかったよ。どうもありがとね」
母親からの同意が得られたことで、僕はカメラの入った箱を外の地面に一時置く。さて、と一息ついてから、また物置の掃除にとりかかった。
―――早くこの掃除を終わりにして、今度は向こうを綺麗にしたり、ドライバー片手に中身をたくさん分解して遊んでやるんだ。あの父親が残したわりには、とても珍しくて面白いモノを――――

        〆

―――――しかし、さぁやるぞと息巻いていた僕は、実に現実的な問題によって、カメラを発見した初日に分解することは出来なかった。
……まぁ、掃除を終えた後に、学校から出されていた休みの間用の数学の宿題があったのを思い出してしまい、その息の根を止めるのに精神力を使いすぎたせいだからだ。
去年やったはずの単元からの問題なのに、解答をやたらと苦戦した自分の無力さを呪いつつも、とりあえず今はカメラの箱の開封に取りかかる。カメラの入った箱を自分の机の上に置き、蓋を開けて、汚いビニール袋やプチプチの付いたシートを僕の部屋のゴミ箱に捨てた。そして、カメラの手入れ用の道具で、丁寧に綺麗にしていく。その結果、なんとかカメラ自体の見かけはかなり綺麗にすることは出来た。これだけ綺麗なら、実はまったく動かないと言われても素人目にはわからないという感じだ。
……僕は、そこまでの作業における自分の腕に惚れ惚れしつつも、時計と自分の体力と相談して、分解という楽しみを明日の放課後に延期せざるを得なかった。少し残念だったけれど、今はこうするのが良い判断なのだろうと自分に言い聞かせる。僕は綺麗になったカメラ本体と周辺部品、それに分解用の工具も一緒に、これまた埃が取れた箱にしっかりとしまい、作りかけのプラモデルを待機させておくように机の上に置き、寝る準備を始めた。

        〆

次の日、僕は授業中でもたま~に自分の部屋の机の上に乗っかっているカメラのことを思い出しては、早く家に帰って分解したいという欲求にしばしば駆られた。そのせいか、今日一日の学校はやたらと体感時間が長かったように感じる。
しかし、時間というのは好むと好まざるとに関わらず、ちゃんと流れていってくれる。
それが良いところかも知れないと、今日は感じることが出来た。帰りのホームルームも、担任が早めに来てくれたおかげで思いの外早く終わった。で、僕は今は何をしているかというと、いつものように里香を自転車の後ろに乗せて、学校からの帰り道をふっとばしていた。あまり褒められた行為でないが、今日の僕は急いでいるので仕方ない。 それに、もうすぐ僕の家に着くという辺りだ。両足のペダルに力を込めて、僕一人分じゃなくて、二人分の体重を支えて走る。
「ホントに、今日はいきなりでごめんね?」
僕の運転する自転車の後ろにしっかりと座った里香が、夕方に近くなってきた時間の風に長い髪をサラサラとなびかせている。ちょうど僕は足に力を込めていたので、鼻息まじりに彼女にこう答える。
「ふうっ……! いいっていいって。 お互い、家の事情が何かある時は助け合おうってことにしてるじゃないかよ?」
「うん、ありがとね。ほんとは、昨日の夜くらいにわかってれば良かったんだよね」
「いいから、気にすんなよ」

――――この会話についてちょっと説明するとすれば、僕と里香の家の、家庭の事情にあった。所謂シングルマザーと世間で呼ばれる僕の母と里香のお母さんは、たまに明け方までの夜勤などで自分の家を空けないといけないこともある。里香のお母さんにはその回数自体が多いし、僕の母は突然家を空けることがある。ちなみに、今日に限っては僕の母親までも帰りが夜10時過ぎになるとか言っていたような、いないような……まぁそれはともかく置いておこう。で、説明するまでもなく、僕と里香は二人とも父親のいない家庭の子だ。つまり母親たちは、日によっては一晩もの間、家に一人息子や一人娘を、独りだけで取り残すことになってしまう。里香のお母さんは里香の身を本当に案じているから、辛くて当然だ。里香自身も、お母さんに心配をかけていることに、やはり良い気分はしなかったそうだ。僕の場合は昔から慣れていて平気だったけれど、なにせ里香は長いこと病院暮らしで、一人で留守番なんてしたことないのは確かだった。……僕の母は、僕と里香との交際を通して、彼女のお母さんともかなり仲良くなっていて、母親同士のふとした会話でそういう事情を知ったらしい。そして、本当に意外な、しかし親指を立ててグッジョブと言いたくなるような提案を、里香のお母さんにしてくれたのだ。
『じゃあ、夜勤がある時は、試しに里香ちゃんをウチに一晩預けてみたらいいんじゃない?』と!
この提案は、見かけ上は健全そのものである僕と里香の交際具合を里香のお母さんがよっく知っていたおかげもあって、お互いの家庭にとって公に認められるものとなった。不文律ではあるけれど、一回二回三回……と数を重ねていくごとに、提案はしっかりとした取り決めに変わりつつあり、そして今回は四回目だ。里香が泊まるのに必要な最低限の道具……例えばバスタオルなんかは僕の家の中から余ってるモノを常に貸せるように用意して、他に里香にしか用意出来なくて彼女が必要だと思ったモノは、彼女自身があらかじめ僕の家に持ち込んでくるのだ。例えば……し、下着とか。
「……裕一、どしたの? 急にスピードが……‥」
そうだ。今この瞬間も里香の荷物の中には下着なんかが入ってるに違いな……い、いけないいけない!回想ついでに不埒な妄想に雪崩れ込み、カメラのことまで一時忘れてしまっていた僕は、里香の不審がる口調で現実に戻ってくる。
「あぁ、ご、ゴメン。ちょっと家に帰った後のこと考えててさ。楽しみがあるんだよ!」
僕にしてはまぁまぁ嘘のない言い訳を口から突き出すと、自分自身と里香の興味の向かう先を、カメラの方に誘導しようとした。
「楽しみ? なにかあるの?」
「いや、ちょっとした掘り出しモノを見つけてさ。物置掃除してた時に」
「へぇ、何なのよ? やましいものじゃないでしょうね?」
後ろから聞こえる里香の興味深そうな口調に、僕は少し勿体ぶってみることにした。
「秘密。俺ん家に着いたら見せてやるからさ。とりあえず、見せられないものじゃないよ」
「ふぅ~ん、推理させてくれるヒントは何かくれないの?」
「元々は親父のだったらしいよ」
俺の親父の遺品だとわかると、お父さんっ子だったせいか、里香は納得したらしい。
「そっか……そうなんだ。私も、楽しみにしてていい?」
「もちろん」
里香はお父さんの本をとても大事にしているんだ。僕の親父が遺したものにも興味が湧いて当然だろう。そうだよな、分解する前のカメラの姿を里香に見せてやりたい。僕は里香との話を一時中断すると、緩やかな坂を自転車で楽に下っていく。いよいよ家は近くなってきた。
                  
          〆

僕と里香は、目的地である僕の家に到着した。
僕はまず、一階の流し台で手を洗って、うがいを簡単に済ませてしまう。まぁ、習慣というわけではなくて、しないと里香に怒られるのだが……。
対して、里香は風邪を引いたりしないようにとても気を遣っていて、小さな白い手を石けんまで使って隅々まで丁寧に洗い、『ガラガラガラ……』と律儀に喉うがいなんかをやっている。
僕はそのことを毎回毎回偉いなぁと、里香のうがいが終わるのを待つついでに感心している。二階に自室では親父のカメラを待たせているが、里香を待つなら許せるもんだと思う。あっ……、里香が来てくれたんなら、一人で一階に残って何か飲み物用意しなきゃ……。
そんなことをしばし考えていると、長いうがいを終わらせた彼女は僕の方を向き直ってこう言った。
「そういえば、掘り出しものっていうの、見せて欲しいんだけど?」
そういえば、里香もカメラを見たがってたんだよな。忘れていた。
「俺の部屋の机の上に箱があって、その中身のことだから、先に行って見てていいよ」
「先に見ていいんだね、ありがとう。裕一は?」
「飲み物準備してから行くよ。麦茶かコーヒーどっちがいい? 菓子はいる?」
「裕一の手間の掛からない方でいいよ。 お菓子はいらないや」
里香、気を遣ってくれたのかな? お言葉に甘えて、僕は飲み物は楽な方を選んだ。
「じゃ、麦茶注いで持ってくよ」
そう答えると、里香は微笑んで返事をした。
「うん、いつもどうもね。じゃ、私先に行ってるから。あっ、裕一の荷物もついでに持ってくよ」
「わざわざ、そんなことしなくてもいいんだけど」
「いいの。どうせ軽いのはわかってるんだもん」
里香は、ちょっとニヤリとしながら僕に近づいてくる。
「ひどいなぁ……」
少しだけ小声で嘆いてみるが、実際言われても仕方ないことだ。『もう少し教科書やノートを持ち帰って勉強しろ』と、里香は遠回しに言ったのだ。
彼女は僕の肩にかかったままの、やや軽めの高校指定バッグを預かる。セーラー服のスカートの裾を揺らしながら、台所の引き戸をガラガラと開けて、トントントン……と、僕よりも軽やかな足音を立てて階段を登っていく。

その足音を聞くか聞かないかの時に、僕は普通の大きさの冷蔵庫から麦茶を並々と湛えて保存している容器を取り出して、次に適当なコップを二つ、年季の入った食器棚から選び出す。続いて、僕が小さい頃から家にずっとある漆塗りみたいな感じのお盆を持ってきて、台所のテーブルの上に置く。
お盆の上に二つのコップを置いて、それぞれに良く冷えた麦茶をトクトクと注ぐ。半分よりやや上くらいまで注いでおいた。これで後はお盆を上に持っていくだけ……。僕はお盆をしっかりと両手で保持して持ち上げて、二階に行こう……。カタカタカタカタ……………
ん? なんだこの微振動みたいのは………コップの中の麦茶が、揺れてる……。それに気付いた次の瞬間、足下からグラリと揺れが来た。地震だ!
ガタガタガタガタ!!!
「うえぇあっ!?」
口からおかしな悲鳴を漏らしながら、僕は麦茶がこぼれないようにお盆を押さえる。さほど大きくはない揺れだけれど、自分の立っている場所が揺れてしまうという本能的な恐怖はなかなかのものだと思う。おまけに、ウチはぼろくて古めの町屋な上に耐震や免震工事なんてしていないから揺れだって大きく感じてしまう。
カタカタカタ………。
少しずつ揺れが小さくなっていき、そして地震は止まった。もう身の回りのモノが何も揺れてはいないことを確認すると、少し落ち着いた。
「ふぅ……」
僕は思わず溜め息をつくと、そそくさとお盆と持って二階に向かうことにする。この地震で、既に二階に上がっている里香も驚いているかも知れない。それに、カメラも早く分解して遊びたいという気持ちだって忘れていなかった。二階へのぼろい階段を上がるとすぐに、さほど大きくはない、僕の部屋が視界に入る。引き戸は閉められていた。きっと中では里香が親父のカメラを手に持って遊んでいるんだろうな、と考えを巡らせた。左手だけにお盆を持ち直し、右手では最近開け閉めしづらくなった引き戸をガララッと開けて、僕は自分の部屋に入ろうとする。
           
         〆

――――少し前の時間、秋庭里香は戎崎裕一の部屋で一人でいた。そこで彼女は、戎崎裕一が『掘り出しモノ』だと言っていたものの正体らしい、古いカメラを両手に取ってマジマジと見入っている。年季が入ってはいるようだが、少年によってちゃんと磨き直されている黒いボディが、秋庭里香の心を捉えていた。自分はカメラのことなんてわからないけれども、このカメラには戎崎裕一のお父さんの遺した思いが詰まっている……そんな風に想いを巡らせながら、物珍しそうにもして色んな角度からカメラを観察していた。
まさにそんな時だった、予期せぬ地震が起きたのは。予想だにしない揺れが襲ってきて、地震が収まった後に気付いてみたら秋庭里香の両手の中からはカメラが消えていた。
……いや、カメラはあった。正確には、地震の最中に彼女が驚いて取り落としてしまい、部屋の床の上に何のクッションも無いまま強く打ち付けてしまっていたのだ。
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「あ……ぁ……っ」
秋庭里香の頭の中は今し方通り過ぎたばかりの地震の恐怖よりも、戎崎裕一にとって宝物であるだろうカメラを壊してしまった、という事実で一杯になっていた。
いや、壊してはいないかも知れない。けれども……普通、カメラなんて精密な、それも掘り出しものと少年に言われていたような機械が、床に叩き付けられて無事なはずがない。考えを巡らせれば巡らせる程に、秋庭里香はどうしようもなく悲しい気分になってしまった。普段は主の気性みたいにつり上がり気味の秋庭里香の眉毛も、こういう時には下がってしまう。一秒ごとに募ってくる、申し訳ない、という純粋な罪悪感が、思わず彼女の口から独り言を漏れ出させた。
「どう……しよう……」
そう一度口に出してしまうと、今度は背中とか顔の辺りが熱くなってきて、目頭も潤んでくる。
「えっ……く……」
小さな小さな嗚咽を漏らしながら、壊れてしまったであろうカメラを秋庭里香はかがんで拾い上げ、胸の辺りに両手で持つ。無意識に外面に損傷が無いか確かめる。一見すると大丈夫なようだが、中身はどうなっているかなんてわからない。
「バカ……私の、バカ……!」
本当に、どうしよう。どうしようかと秋庭里香は短い時間で更に考えを巡らせたけれど、何も良い考えは思いつかない。途方に彼女が暮れたまま立ちつくしていると、突然、部屋の引き戸がガララッと開かれた。そこにいたのは、麦茶の入ったコップを二つ載せたお盆を持っている戎崎裕一だった。他の誰でもない。秋庭里香は戎崎裕一の姿を見ると、もう一も二も無く謝ることを選んだ。
自分が壊してしまった彼の思い出を埋め合わせるためなら、何でもするしかないと思って―――――

           〆

 最初は、いきなり里香の身に何が起こったのかはわからなかった。いや、何が起きていたかわからなかったという方が正しいだろう。僕はまず、持ってきたお盆を机の上に置いたのだが、そのすぐ後に里香に話しかけられて驚いた。
「ゆういち……!」
「里香……ど、どうしたんだよ?」
何に驚いたかっていえば、その様子が尋常じゃない。とにかく、いつもの里香らしくない程取り乱していて、両方の吸い込まれそうな漆黒の瞳に涙を浮かべてさえもいる。
「えっと、よくわかんないんだけど、ちょっと落ち着いてくれよ。な」
「うっ……、うん、ひっぐ、えぐ……」
「里香、何があったかわかんないけど……とにかく落ち着いて」
僕に諭される里香なんて、珍しいにも程がある。
「う、うん……」
どういう風にしたら良いかわからず、僕は両手でカメラを握りしめたまま嗚咽を繰り返す里香の頭や身体を撫でて、ほんの軽い抱擁をするしかなかった。そういうやりとりを経て、なんと涙目にまでなっている彼女を鎮めて、ようやく何を謝りたいのかを聞くことが出来そうだ。もっとも、机の上の箱には中身がなく、今はその中身が泣いて謝る彼女の両腕の中にあって、ついさっきには地震があったことから考えてみれば……自ずと、答えは出そうなものだった。そして、僕が先に里香の言いたいことを理解していれば、そこから先の展開は実際とは違ったかも知れない。まぁでも、それは所詮、後で答えを知っていたからこそ思いつく『もしも』だ。明らかに普通でない里香の様子自体に、僕も正直ちょっと動転していたし。そういうわけで実際の所は、僕がどうこう言うよりも先に、彼女の方が口火を切ることになった。
「わたしね……」
僕は身体を里香に近づけたまま、黙って彼女の話を聞いていた。
「裕一の、このカメラ、落としちゃったの」
「え?」
事情をイマイチ理解出来ていない僕が思わず間抜けな声を出すと、里香は更に悲痛な口調で告白を続けた。
「だから……その、さっきの地震で、私驚いて、このカメラ思い切り落としちゃったの! 床に! ……これじゃ、きっともう動かないよぉっ……」
「あっ……」
そういうことか! まずい……僕は里香にまずい誤解をさせてしまっている! ほんとうは、ほんとは……あのカメラは、『元から』動かないってのに……。
「ごめんね……裕一。 私のせいで、裕一の、大事なお父さんのカメラが……!」
事実を知っている僕としては里香に誤解をさせてしまったことが問題なのだが、里香にとっては僕の父親のカメラを落としてしまったことが問題だ。しかも、里香にとっての『お父さんの思い出』というのは、とてもとても大切なモノで、それは入院していた頃から明らかだった。今回のことで余計に気負ってしまうのも仕方ないだろう。正直な所は、早く誤解を解いてやりたかった。
「あ……う、うん……そうだな。たしかにたいへんかもしれないですね」
……しかし僕は、とても真剣に謝っている里香に対して、事実を伝えるタイミングをなかなか見つけられなかった。
おかげで妙な返事をしてしまい、里香に余計に罪悪感をもたらしてしまいそうだ。細めた彼女の目には美しく透き通った涙が溜まり、頬は感情の高まりのせいか赤く染まっていた。
そんな、あまりにも自然で無垢過ぎる感情を顕わにする彼女の姿を見るのは、なぜか久しぶりな気がして、僕はそれに半ば見とれてしまっていた。そして、見とれている間にも彼女の謝罪は続く。
「ゆういち……! わたし、許してもらえるなら、本当に何でもするから、だから……!」
彼女はカメラを両手で胸の下辺りで両手でぐっと掴み、今にも泣きじゃくりにそうになって言葉を紡ぐ。あぁ、里香って、こんなにも僕のことを……。
里香はわがままではあるけれど、筋が通らないことが大嫌いなタチだ。それでいて、あまり本心から他人に頭を下げたがる方であるワケでもない。その彼女が、僕に対して本当に誠実に謝ってくれている。それはつまり、里香が普段から僕に抱いている、想いの強さを表しているようにしか考えられなかった。……一度そんな風に考えると、里香への愛おしさがモヤモヤとしたモノを伴って、僕の心の中に鎌首をもたげる。昔、今は無き多田コレクションでこういう風なシチュエーションを見たような気がする。

確か、若い貴族のご主人様のとても大事にしてる美術品を誤って割ってしまった、こちらも若くてとっても素直なメイドさんが、ご主人様にカラダで許しを乞うような話しだった。
若いご主人様というのは美術品が好きなだけで、さほどスケベなキャラではなかったようだが、結局雰囲気に流されてコトに及んでしまうのだった。
『わ、わたし……埋め合わせになんでも致しますから……どうぞ、ご主人様のお気の向くままに命じて‥‥ください』
……覚えている限り、そんな内容だった。
なんで僕がこのタイミングで思い出すのかといえば、それはつまり、今の僕の置かれた状況が、今思い出した本の内容にかなり似ているからに他ならない。まぁ、里香は若いけれど、流石にメイドさんほどには素直じゃないし、僕だってただのスケベ心で里香を抱いたりなんかしない。でも、里香を自分の好きに出来るなんてことに対しては、正直、背徳感で心が震えるくらい興奮してしまうだろう。

そんなことを思い出していると、まるで僕の頭の上でピカンと電球が付くような感じがした。漫画でよくある演出だ。そして、次の瞬間気付けばこう里香に向かって口を開いていた。 いつもの僕らしからぬ、策略に満ちているであろう表情を一瞬だけしてみてから。
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「じゃあ、こうしてみようかな」
「えっ……? な、なに? きゃっ」
里香が可愛い悲鳴を上げたのは、僕が急に里香の身体をギュッと抱き寄せたからだ。そして、その耳元でちょっと芝居がかった感じで囁いてやる。
「……最近、一人でも二人でも全然してなくて溜まってきちゃって……。
 とりあえず、今日だけ俺の好きにさせてくれたら、もうカメラのことはいいよ」
「え!?」
里香は戸惑ったみたいだけど、しばらくして返ってきた答えは悪くなかった。
「………うん……。そうだね、随分してなかったもんね……」
里香は恥ずかしさと罪悪感で、少し震えながら小さな声で話している。もちろん、これから自分がおおよそ何をされるかわかっていてだ。もっとも、恥ずかしさはともかく罪悪感までも感じさせたままで、里香としたくなかったので、僕は彼女にフォローを入れることにする。
「だけどさ……あんまり気にすんなよ? あのカメラは、元から動くかどうかはわからなかったんだから」
こういう答え方なら、里香が壊したとは限らないということになるから、彼女の気も少しは楽になるはずだと思った。
「でも、そう言われても……」
里香の言葉からはまだ罪悪感が感じられるけど、表情からはさほどでもない。一応、僕の考えが功を奏したというわけだ。調子に乗った僕は、決定的な言葉で里香を誘う。
「じゃ、ほら……カメラは置いて、早くベッド行こう。な? 今日は、俺の母さんも帰ってくるの遅いしさ……」
「ゆういちの……すけべ……きゃん!」
自分でも驚くくらいアレな僕の誘いに、里香は首を縦に振ってくれたので、僕は早速彼女の唇を奪った……。
      
       〆

「さ、最初は手だけですればいいの?」
ベッドに座って足を大きく開いた僕の目の前に、里香はいた。彼女は床にクッションをひいて立て膝をしていて、その顔は僕の股間の目の前辺りにある。
「うん、とりあえずね。里香の手でしてもらえると、すごく気持ちいいからさ」
「そう……なんだ?」
「あぁ、自分でするのより一万倍はいいよ。ほんとに」
そう答える僕は、心と股間が早くも興奮で満たされているのを感じていた。
今まででも、お互いの家で親がいない間に『した』ことはあったけど、今回は特に興奮してしまっているようだ。
実際、愚息は里香の顔の前でズボンとトランクスに阻まれながらも激しく自己主張している。
おかげで僕は、多少なりとも卑猥なことを平気で言えるようになっている。
「ほら、早く手でしてくれよ? これが初めてじゃないんだし、なんでもしてくれるって言ったじゃん」
「う、うん……」
そう言われて、里香は観念したような感じの顔になり、僕のズボンとトランクスを大きくずり下ろす。もちろん、手で直接僕のペニスを愛撫する為だ。
「うわぁっ……もう、こんなに大きくなってるの……?」
外気に晒された、既に血管の浮き出て力強く勃起したペニスを目の前で目の当たりにする里香。
彼女は思わず、多田コレクション(オリジナル含む)でよく見たような台詞を発しながら驚いてしまう。
「ちょっと、今更そんなに驚かれると傷つくなぁ。だって、里香のおかげでこんな風になってるのに」
普段されているような意地悪の仕返しがしたい気分になって、僕はそんなことを言ってやる。
すると、里香は少しだけ嬉しさを含んだ戸惑いを感じたまま、目の前でヒクつく肉棒に対して、遂に右手を差し伸べて、軽く握った。
ピクンッ。ペニスが反射的に震えてしまった。そして、彼女はこう言いながら程よい強さで肉棒を扱き始める。
「わかったよ……裕一。わたしが、してあげるからっ……」
細い手の指先一本一本からペニスにかかる圧力が快感となって、腰が思わず浮いた。その感触を、まるでプールの水に身体を浸して徐々に慣らしていく時のように僕は楽しむ。
「……うお、やっぱり、気持ちいいな」
里香は左手でペニスの根本を押さえ、主に右手のみで肉棒を扱き上げる。僕のものとは全く違う、里香の白くてやわらかい手のひらの感覚が僕のペニスを刺激していく。他人の体温、それも里香のじんわりとした体温がペニスにだけ触れているという事実だけでも、凄いことだと思う。
「わっ……裕一のお●んちん……、すごく熱いね」
熱心に愛撫をし始めた里香は上目遣いで僕のペニスを扱きながら、そう率直な感想を漏らす。……里香の淫語が聞けるなんて、こんな時しかないだろう。
「里香の手だって、白くて小さくて柔らかくて、気持ちいいよ」
僕のお世辞のような本音に、里香はまんざらでもない様子で微笑んだ。彼女はやがて、少しずつ扱くスピードを上げて行こうとする。しかも、ただスピードを上げるだけじゃなくて、色んな工夫をちゃんとしてくれる。全体を優しく撫で回してくれたり、敏感な亀頭の裏筋辺りにだけ刺激を集中したり、そういったことだ。本番の前座と思われていそうな前戯でも、尽くしてくれるのが里香だ。しばらくそうして快感を味わっていると、里香が少し戸惑いつつ聞いてくる。
「えっと……裕一、きもちいい?」
里香の手が僕のペニスの包皮を上下させて、程よく力を込めて扱きあげている。
「あぁ、すっごくいいよ。里香が一生懸命してくれるおかげで」
実際、里香の愛撫は今まで僕と積んだ経験によってとても的確なものになっていて、既に僕の鈴口からは先走りが漏れだしてしまっているくらいだ。決して、僕が我慢が出来ない男というワケじゃない。里香は上目遣いで右手に適度に力を込めながら、僕に返事をする。
「喜んでもらえて嬉しいけど……んっ?」
「どうしたんだ?」
僕が聞くと、里香は今度は少し意外そうな顔をしてこう答えた。
「……濡れてきてるね、裕一の」
先端から徐々に滲んで出てきた先走り液のことらしい。
「あぁ、ゴメン。ちょっともう我慢出来ないみたいで……」
つまり、彼女は僕の射精がもう近いことを悟ったらしい。
「そろそろ、出そうなの?」
「うん……っくっ!」
僕を早く達せさせる為に、里香の手の上下運動が一層激しくなる。自分でしてたらちょっとばかり強すぎるという程度の激しさだ。シュッシュッとリズミカルに僕のペニスが扱き上げられて、断続的に激しい快感を味あわされる。ビクビクっと震えたらペースを下げ、また完全に血流が亀頭に回ったらペースを上げる、その繰り返しが、僕を絶頂に押し上げていく。
「ゆういち……気持ちよくなってね?」
里香は先走りで右手をねちょねちょに汚しながら、それを全く気にせず僕のペニスを愛撫し続ける。彼女は常に僕のペニスを最大限のストロークで愛撫出来るようにのみ、今は気を払っているようだった。感情が高ぶっているのか、彼女は少し涙ぐんでもいた。
「ふ、っ……!」
高まってきた射精感に、僕は思わず呻きながらペニスと腰を震わせて反応してしまう。……元はといえば、今回は僕が里香に言うことを聞いてもらうはずだ。なのに、僕は結局、里香の手一本にこんなにも翻弄されてしまっている。それは悔しいことだったかも知れないけど、今の僕の頭の中はもう、射精したい気持ちで一杯だった。そして、不意に限界が訪れた。
「り、里香……これ以上されると俺……くっ!」
僕が里香に自分の限界を知らせようとした正にその時、まるで何かが股間で暴発したみたいな感覚に襲われる。次の瞬間、ペニスが脈打つのと共に、白濁した液体が鈴口から里香の顔に向けて迸ってしまう。
ビュルルッッ!! ドクッ!
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「きゃぁっ!」
いきなりのことに驚く里香の顔に、ねっとりとしていて少しだけ黄ばんだ白濁が、容赦無くピトッピトッとかけられてしまう。日本人形のように白くて綺麗な彼女の顔の肌が、それ自体の色とは違う色合いのもので白く点々と濁る。
「ゆっ、裕一のがっ……こんなに」
深く黒い色をした髪にも精液がこびり付いていて、もし触ったらひどく生々しい感触がしそうだった。僕はといえば、射精の激しい快感を少し遅れて自覚しながら、余韻の中にいるしかなかった。
「ぴちゅぴちゅ……沢山出たし、こんなに味濃いなんて……。 裕一、溜めすぎだよぉ……」
自分の顔についた精液の塊を、人差し指で掬って味見するように口に入れながら、里香は僕にこう言ってきた。
「はぁ……はぁ……すっげぇ気持ちよかったよ。 溜まってたせいもあるけど、里香のおかげだよ。ありがとう」
正直にお礼を言いながら、虚脱感であり充実感でもあるような感覚が、僕の心身を支配していくのがわかった。……いや、それは少し違った。射精の余韻が徐々に収まってくると、今度は代わりに、自分が汚した里香の姿の淫らさに僕は再び欲情し始めていた。精液で濡れたペニスに、新鮮な血液が集まって力強く反り返る。
「でも裕一、さっきのは出すなら、早く出す言って欲しかっ……きゃっ!」
僕は、少し困った顔で不満を言っていた里香の頬に、思い切ってペニスを擦り付けた。いや、腰が勝手に前に動いてしまったかのような感覚だったように思える。ちなみに、こんな行為は、僕と里香の関係においては初めてのことでもあった。
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「やっ……ゆういち、何するのよぉっ……こっ、こんなの変っ」
精液が付着したままの亀頭を潰れるくらい、里香のほっぺにふにっと押しつける。亀頭からわずかに滲み出る精液の残滓を、腰を動かしたりペニスをビクンと震わせたりして、ほんの少しだけほっぺに塗りつける。
股間の先端から伝わってくる柔らかな、ある種背徳的な感覚を楽しみながら、里香に恥ずかしげもなくこう言った。
「いや、なんていうか、その……今度は口でして欲しいんだけど。 後二回くらいは出さないと落ち着かないかも……」
「……!」
「や、もちろん、どうしても汚くて嫌なら別にいいよ」
そう言いながら、僕は里香の頬に更に亀頭を押しつけようとする。
「も~~……わかったわよ……」
里香は一瞬、そんなの通るかー!とでも叫びそうな顔をしたが、その後は観念したのかしおらしくなって、頬から離れていた僕のペニスに手を掛けようとする。彼女の絹のように白い両手が、それらとは対照的にグロテスクで赤黒い僕のペニスの根本と中程の部分を押さえる。もちろん、口で咥えて愛撫する時に、竿全体があまりブラブラと動かないようにする為だ。
「……ふぁっ」
射精してからまだ長い時間を経ていないペニスを里香に握られた僕は、思わず竿をビクンと震わせて、変な声を漏らして反応してしまった。そんな状況を正に目の前で見ていた里香が、素直に可笑しいといった感じでクスクスと、やたらと笑う。僕はどうにも気恥ずかしくなって、もはや里香に先を促すことしか出来なかった。結局は、里香にしてもらいたいだけなのだから、しょうがない。
「はむ……んっ、ちゅっ」
里香はというと、早速僕の亀頭を甘噛みした後に軽くキスをして、本格的な愛撫に取りかかろうとしているところだった。その可愛らしい口で赤黒い肉棒を咥え込んで、懸命に口をすぼめて舌で愛撫してくる。
「んっ……はぁ、ちゅぴ、ちゅぴ」
まるで里香の口は、僕のペニスを愛撫する為だけの器官であるかのように一生懸命に蠢いている。ぴったりペニスに吸い付いてきて、良い感じに絡みついてくる。里香が自分のして欲しい通りにしてくれていることが少し恥ずかしいけど嬉しくて、早くも股間に血液が集まり始めるのがわかった。ペニスを熱心に咥える里香の口元から、粘膜と唾液と先走りの出す音が混じって聞こえる。
「ちゅるっ、ぴちゅ、ちゅっちゅるっ……」
里香は僕を早く達せさせたいのか、敢えて深くまで咥え込むことはしないで、敏感になった亀頭を中心に弄ってきた。舌を巧みに使ってエラを抉り、裏筋を擦り、ハイペースで僕を射精に導こうとする。腰が浮き上がるような射精の予兆に、僕はたまらず里香にそのことを伝える。
「あ、あっ、そろそろ俺……!」
すると里香は、愛撫のペースをあげながらも、そのパターンを少し変えて来た。なんと、彼女の舌先が僕の鈴口をチロチロとくすぐり初めているじゃないか!?
「うぁっ」
痛気持ちいいといった感じの刺激が、僕を責めさいなむ。
(り、里香に犯されてる……!)
そう思わずにはいられないほどの感触が、亀頭の鈴口から全身に向かってほとばしり、無理矢理快感を引きずり出されるようになる。おまけに、里香はもう一工夫加えたいと思ったのだろうか。子種をしこたま溜め込んだ僕の二つの睾丸を、程良い力で揉みしだきはじめる。自分の大事な睾丸が里香の右手で包まれて弄ばれる感覚は、妙な恥ずかしさとじんわりとした安心感を僕に与えてくれる。二つの新しい刺激は、僕を直に射精させる類のものではないけれど、十分に愛撫としての効果があった。これだけ気持ちいいことを里香にされたら、本日二回目だって関係ない。僕は自分の限界が近づいてきたのを、今度はちゃんと里香に知らせることにした。
「も、もう出そう」
……我ながら、なんとも情けない言葉だけども、里香にはそれで伝わった。里香は肉棒を両手で握り直すと、まっすぐに飲み込んで、縦に首を降り始めたのだ。それほど長いストロークではないけれど、その分、亀頭が里香の口内で激しく刺激された。
「ちゅぷっ、ずるっ、ぐぷっ、じゅ、じゅるっ……」
里香はすべての思考を目の前の僕のペニスに使い、それは献身的なようにさえ思える。いや、里香は本当に僕に何もかも捧げていてくれるんだ……。そうじゃないのなら、こんなことなんて出来ない。そういったことを認識すると、一気に射精感が強まる。
「くぁっ……里香、もうでるっ!」
すると、里香は僕の亀頭の先っぽだけをカプリとくわえ込んで、鈴口とその周辺を中心にラストスパートをかける。ちょっと痛い感覚はすぐに快感に変換されて、より巨大な快感の流れに取り込まれて外に放出された。
ビクン!ビクッ!
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僕のペニスが力強く波打ち、里香の温かい口の中に粘っこい白濁を流し込む。
「っ……んぐっ、ごくっ、ごくっ……」
里香は酷い味がするであろう精液を、口に入ってきた先から躊躇わずに喉を鳴らして飲み込んでいく。
「むぅっ、んくっ……」
それどころか、竿の下辺りに添えた両手を扱いたり握ったりするように動かして、一滴残らず絞りだそうとしている。鈴口の先から小さく漏れ出た水玉のような精液の小さい残滓をも、里香が舌先で舐め取る。極上の口での奉仕に、射精が収まった後でも僕はもう天にも昇る気持ち良さを味わっていた。
「あぁ、ほ、ほんとに気持ちいいよ里香……最高、ですぅ……」
僕がそう口から漏らすと、里香はいったん僕のへ愛撫をもったいぶるように止める。代わりに、自らの顔や髪にこびりついたままになっていた精液を、瓶の底に溜まったジャムを集めて掬い取るように、少しずつ指で集めて、そして口に運んだ。彼女は目を軽く瞑りながら、精液を口に含んで味わってから飲み込んでいる。
……今まで見たことがなかったような里香の淫靡な行動に、精液を拭き取るための濡れタオルでも用意しておけばよかったという考えも、僕の思考の外へ出てしまいそうになる。
そして、男の身体の反応も情けないくらい素直だった。二回も射精していてお疲れのはずなのに、もう四分の三くらい勃起してきている。
またこのパターンか……と、自分で呆れたすぐ後に、その現象は里香にも目を付けられる。
「裕一の……綺麗にしてあげるね。んっ……ちゅっ」
すると、彼女は上目遣いのまま舌先をペニスに伸ばし、エラの辺りをチロチロとなぶる。
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「ちろちろ……くちゅ」
精液や先走りや唾液でヌラヌラしていた僕のペニスを、少しずつ少しずつ、時間をかけて里香は舐め上げていった。
「れろっ‥‥れろ……ちゅ……」
エラや裏筋の隙間みたいな細かいところまで、里香は面倒がらずに舐めていく。まるで、アイスキャンデーを舐めてるみたいだと僕は思ってしまう。でも、ペニスがアイスキャンデーみたいに甘いはずなんかない。それなのに、嫌がらないでこんなにもペニスを舐める里香のことを考えると、心がとても温かくなる。射精の余韻と相まって、その穏やかめな奉仕はとても落ち着いて興奮出来るものだった。おかしな言い方かも知れないけど、とにかくそういう感じだ。里香はペニスを隅々まで綺麗にし終えると、床の上に座ったままで、ベッドの上に頭を預けるようにして休憩をする。
僕から見ると、彼女の顔は僕の右太もものすぐ隣にある。なんだか、今更気恥ずかしい。白いシーツと里香の髪の毛の色、瞳の色とのコントラストが鮮やかだ。
「……ゆういち」
今の気恥ずかしい僕たちに必要な言葉は、彼女がちょっと気だるそうに発した一言だけでよかった。
「里香、こんなに頑張ってしてくれて、ありがとうな」
そう言いながら僕が里香の頭を優しく撫でると、彼女は少し誇らしげで心地よさそうな顔をしてくれる。
そんな風にして、僕と里香はしばらく休憩を取った。これは、必要なことだとわかっているからだ。
もちろん、今日の夜は楽しくて長くなりそうだという予感を、お互い口には出さずとも二人で強く感じながら――――

To be continuted→

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